第五回 : 含有リスクアセスメントの視点
含有リスクアセスメントの視点
前回は、分析対象とする部位を絞り知恵を働かせて分離せずに分析することで効率的な分析が可能になる、というお話をしました。今回は、引き続き「分析対象とする部位をどのような考え方で絞り込むか」についてお話します
(1)生産者、販売者のリスク
最終製品を製造している大手メーカーの多くは、部品等のサプライヤー企業に規制遵守のための仕組み作りをお願いするとともに、システムが構築されているか否かの監査を行っています(富士通ももちろんこうした取り組みをしています)。
調達先の企業が、「そもそも規制の内容を知っていて遵守しようとしているのか?」といった点や、また遵守しようとしていても「そのための技術や管理体制があるのか?」ということは非常に重要なポイントです。
(2)複雑さのリスク
構成物品が多くなれば多くなる程、RoHS不適合品が紛れ込んでくる確率が高くなります。このことは実務に携わっておられる方なら良くお分かりと思います。しかし、もう一つ重要なことがあります。それは、構成物品が多いということは源流(素材生産)から遠くなり、間に多くの人が介在するということです。多くの人が介在すれば、間違う人や誤解する人が介在する可能性も高くなります。つまり、伝言ゲームの参加者が増えるほど情報は正しく伝わりにくくなる、ということです
大分前になりますが、「ある大手半導体メーカーが、モールドレジン中にPBDE含有、と申告してきたので調べてほしい」という相談がありました。しかし、LSIのモールドレジンにPBDEが使われることなど、まずもって考えられません。そこで、そのメーカーから送付された資料一式を調べてみると、なるほど表紙に「モールドレジン中にPBDE含有」とあります。しかし、後ろの方のページには「モールドレジン中にPBDE含有、含有量 <10ppm」とあり、さらに奥には「モールドレジン中のPBDE <10ppm」とありました! つまり、「PBDE <10ppm」とは「高感度な(検出限界 10ppmの)分析をしても検出されなかった」ということで、分析屋/材料屋からすれば「入っていません」という意味であることは明らかですが、それがいつのまにか「PBDE含有」になってしまったのです。
これは含有していないのに「含有」と回答した例で、笑い話ですみますが、もちろん逆(この連載では紹介しにくいですが) もあります。
(3)素材の種類によるリスク
鉛,カドミ等は、ある素材に偶然含まれてしまうわけではありません。これらの規制物質は性能改善や低価格化といった必然性があって使われてきたわけです。したがって、どのような材料に何の目的で使われてきたのか、を知ることは非常に重要です。もちろん意識的な使用ではなく不純物として含まれる場合もありますが、この場合も偶然含まれる訳ではなくその素材の原料や製造工程に必然的な理由があります。
まだまだ鉛を含んだ材料が使用されている、あるいは最近まで使用されていた素材について重点的に調べることで検証の効率は大幅にアップします。
上記の三つの視点はいずれも重要であり、これらの視点によるリスク推定を複合的に活用することで、前回述べた「分析対象とする部位を絞る」ことが可能となります。
もう少し詳しく述べたいところですが、(1)、(2)については分析に重点を置いた本連載の趣旨ではないので割愛し、「(3)素材の種類によるリスク」について、第六回はもう少し踏み込んでお話します。
- 第一回 : 材料管理の単位(均質材料?)
- 第二回 : セットメーカーにおける含有分析の限界と分析の目的
- 第三回 : 分析結果からの不適合の原因推定(プリント板の例)
- 第四回 : 検証分析を効率的に行うために
- 第五回 : 含有リスクアセスメントの視点
- 第六回 : 素材の種類によるリスク
- 第七回 : 素材の含有リスクマップ
- 第八回 : 知恵を働かせて分離せずに分析(その1)
- 第九回 : 知恵を働かせて分離せずに分析(その2)