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製品含有化学物質管理 >> RoHS分析あれこれ >> 第九回

第九回 : 知恵を働かせて分離せずに分析(その2)

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 知恵を働かせて分離せずに分析(その2)

「知恵を働かせて分離せずに分析する」ということについて、前回に続きもう一つ例をお話したいと思います

左下の図は、表面実装用(SMDタイプ)チップ抵抗の電極部分と本体部分を各々微小径の蛍光X線で測定したときの元素組成計算値(ファンダメンタルパラメータ法で算出)です。電極部分からも本体部分からも鉛(Pb)が検出されています。しかし、Pbが検出されているからと言って即座にRoHS違反とは言えません。RoHS指令には数多くの適用除外(一定の条件でPbの使用が許される)がありますので、Pbの由来がわからないと判断できません。

また、表示された元素組成計算値は単一材料(均質物質)の組成を表しているとは限らないことにも注意が必要です。下にある、隠れている部材からの信号も拾っているからです。したがって、チップ抵抗の断面構造がどのようになっているか知らないと判断のしようがありません。右下の図はSMDタイプの抵抗の一般的な構造を示しており、基板上に形成した抵抗を保護膜で覆い、両サイドに電極が形成された構造であることがわかります。

  

 

チップ抵抗の断面構造を知っているだけでも大きな助けとなりますが、さらに各々の部位にどのような材料が使われることが多いかを調べておくとPbの由来を判断する上で一層役立ちます。下の表は第七回でお話した「含有リスクマップ」を電子部品の構成材料に適用した例です。代表的なタイプの抵抗部品について、一般的な構成部位および使われることが多い材料をリストアップしています

 

 

さて、抵抗部品の構造と使われる材料についてこれだけの予備知識があれば、最初に言及した蛍光X線の測定値を次のように解釈することができます。

電極部分については、銀(Ag)の焼付電極上にニッケル(Ni)のバリアメタルを介して錫-鉛(Sn-Pb)のはんだめっきが施されていると言えます(下図)。Pbは、はんだ由来ですからRoHS違反と言うことになります。因みにSnもPbもはんだ以外には含まれていませんので、SnとPbの相対比からはんだめっきの組成を推定できます。Pb/(Sn+Pb)=35%から、Sn-Pb共晶はんだがめっきされていると推定されます。

一方、本体部分についてはPbが検出されていますがSnは検出されていません。はんだには必ずSnが使われますので、本体部分のPbは「はんだ由来ではない」といえます。はんだ由来ではないとすれば、考えられるのは保護膜のPbガラス由来か、印刷インクの白色顔料由来(可能性は極めて低いが)ということになります。Pbガラス由来なら適用除外ですが顔料由来なら使用禁止です。しかし大丈夫です。チタン(Ti)が検出されていることから、鉛白ではなく酸化チタンが白色顔料として使われていると推定できるからです(実際には印字の無い部分を分析してTiが検出されないことを確認していますが)。したがって、Pbは適用除外のPbガラス由来ということになります。なお、クロム(Cr)は抵抗体(金属)由来と考えられます。少なくとも六価クロムの可能性はまず有りません。詳細は割愛しますが、クロメートやコーティング樹脂中のクロム顔料由来にしてはクロムの検出量が多すぎるからです。

 

「知恵を働かせて分離せずに分析する」ということについて、二回にわたって具体例を挙げてお話しました。「頭を使えば手を使わず(分離せず)に済む」と受け取ったでしょうか? それとも「そんなに頭を使うくらいなら手を使ったほうがマシ」と思われたでしょうか? 多様な電子部品についてリスクマップを作成し「知恵を働かせて~」をとことん追求したのが、第三回でご紹介したプリント板の元素マッピング分析です。マッピング型の蛍光X線装置を導入している所も多いと思いますが、十分活用しようとするとかなりのノウハウが必要です。