第二回 : セットメーカーにおける含有分析の限界と分析の目的
セットメーカーにおける含有分析の限界と分析の目的
前回はRoHS指令における管理単位といいますか、含有(濃度)分析を行うときの分母は素材(均質物質)であることをご説明しました。鉄鋼やプラスチックなど素材メーカーではロット毎に成分や特性を分析し品質保証していますから、分析項目に規制物質の含有分析を追加することでかなり確度の高い非含有保証が可能です。
しかし、同じような手法が電子機器でも成り立つでしょうか? 電子機器にはたくさんの部品が使われており、さらにそれらの部品は多くの素材から構成されています。これらの素材を全て分析し非含有保証することは可能なのでしょうか?
分析の限界
結論から言うと、単純な材料ならともかく、電子機器に対して含有分析で非含有を保証するなど到底できません。その理由は、
- 先ず構成素材の数が膨大で、しらみ潰しに分析しようとしたら莫大なお金がかかり経済的に成り立ちません。
- また、各部品に使われている各々の素材は微量であるため1000ppm以下のレベルで分析することは技術的に相当難しくなります(費用がかさみます)。
- さらに、より本質的な問題として分析したサンプルの部品と実際に販売される製品に使われている部品とは必ずしも100%同一ではないという事があります。汎用部品につ いては供給の安定性等の理由で複数の会社から購入するのが一般的ですから、殆どの部品は同じとしても何個かは分析したのとは異なる部品が実製品に搭載されてしまい ますので、99% OKでしょうとは言えても、100%OKの証明にはならない。
では、分析しても意味が無いのでしょうか? そんなことはありません。
分析の目的
分析の目的は保証することではなく問題点を見つけ出すこと、と考えれば話は変わってきます。
「存在する事」を証明するのは簡単で例を一つ見つければ良いだけだが、「存在しない事」を証明するのは悪魔の証明といって一般に不可能である・・という有名な物理学(哲学)の命題にも通じます。
つまり不適合が見つからなかったからといって不適合が存在しない事の証明にはなりませんが、不適合が見つかったら必ず不適合が存在するということです。そして、不適合という結果に対応する原因が存在するということです。
不適合の原因としては、例えば、商社さんが知らずに取り違えてしまったとか、部品メーカーの除外規定に対する解釈が自分たちとは異なっているとか、色々な原因があります。そうした、ミスや誤解を含有分析によって見つけ出すことができます。原因が分かれば、誤解を解いたり、管理体制の問題点を是正したりといった対応も可能となります。
逆に、不適合が見つかった部品や素材をRoHS適合品に置き換えたとしても、元々の原因の追求や是正をおろそかにしていたら、他に未発見の同様の問題があるかも知れないし、再度同じ問題が発生する危険も放置されてしまいます。 つまり、セットメーカーにおける含有分析の目的は是正すべき不適合を発見することにある、と言えるでしょう。
第三回は、含有分析の結果から不適合の原因を推定することについて、具体的な例を一つご紹介します。
また、どうしたら効率的に問題点(不適合)を発見できるか?ということになりますので、第四回からはそのお話をしたいと思います。
- 第一回 : 材料管理の単位(均質材料?)
- 第二回 : セットメーカーにおける含有分析の限界と分析の目的
- 第三回 : 分析結果からの不適合の原因推定(プリント板の例)
- 第四回 : 検証分析を効率的に行うために
- 第五回 : 含有リスクアセスメントの視点
- 第六回 : 素材の種類によるリスク
- 第七回 : 素材の含有リスクマップ
- 第八回 : 知恵を働かせて分離せずに分析(その1)
- 第九回 : 知恵を働かせて分離せずに分析(その2)