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医薬品におけるニトロソアミン類(NDMA・NDEA)の生成経路を解説

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バルサルタン等のサルタン系医薬品や、ヒスタミンH2受容体拮抗薬であるラニチジン塩酸塩の原薬及び製剤から、発がん性物質「N-ニトロソジメチルアミン(NDMA)」が検出されたという報告がありました。

それを受け、製造販売事業者は、米国食品医薬品局(FDA)、欧州医薬品庁(EMA)、厚生労働省等の各国規制当局より、ニトロソアミン類が管理指標以下であることを確認するよう求められています。

 

もし、あなたが医薬品原薬・製剤の研究開発者であれば、なぜこれらの医薬品からニトロソアミン類が生成するのか、気になっているのではないでしょうか。

未然にニトロソアミン類の生成を防ぐ、もしくは管理の必要性の有無を理解した上で、医薬品開発するためにも、ニトロソアミンの生成経路(生成機構)を理解しておいて損はありません。

 

本技術コラムでは、以下の3つの医薬品からのニトロソアミン類の生成経路を解説します。

  • サルタン系医薬品
  • ラニチジン、ニザチジン
  • メトホルミン塩酸塩

 

ニトロソアミン類の一般的な生成経路

一般にニトロソアミンは、アミン(第二級、第三級、第四級アミン)と亜硝酸(酸性条件下、亜硝酸ナトリウムなど)のニトロソ化反応で生成します。

亜硝酸ナトリウムから生成するニトロソニウムイオン(+N=O)を求電子剤として、アミンが反応して、N-ニトロソアミンが生成します。(スキーム 1

ニトロソアミン類の一般的な生成経路

スキーム1

 

サルタン系医薬品からのニトロソアミン類の生成経路

2018年7月に、サルタン系医薬品(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)であるバルサルタン原薬において、NDMA(N-ニトロソジメチルアミン)やNDEA(N-ニトロソジエチルアミン)が検出されたことが報告されました。

これに伴い国内では、厚生労働省から以下4つのサルタン系医薬品に対し、NDMAとNDEAの管理指標が設定されました。[参考:厚生労働省「NDMA及びNDEAの管理指標の設定について」]

 

成分名、及び構造式を下表にまとめています。

すべての成分において、テトラゾール環を有していることが特徴です。

成分名 構造式
バルサルタン バルサルタン
イルベサルタン イルベサルタン
オルメサルタン オルメサルタン
ロサルタン ロサルタン

 

サルタン系医薬品におけるNDMA生成経路は、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)と、亜硝酸ナトリウムによるものと考えられています。

[参考:FDA「Control of Nitrosamine Impurities in Human Drugs」, B. General Root Causes for the Presence of Nitrosamine Impurities in APIs]

 

DMFは溶媒、亜硝酸ナトリウムはテトラゾール環形成で使用するアジドのクエンチ剤として使用されています。

DMFが分解して生成したジメチルアミンと亜硝酸ナトリウムが酸性下で反応して、NDMAが生成すると考えられています。(スキーム2

ジメチルニトロソアミン生成経路

スキーム2

 

また、NDEA生成経路は、合成経路に含まれるトリエチルアミン(TEA)から生成するジエチルアミン(DEA)と亜硝酸ナトリウムによるものと考えられています。[参考:EMA「Sartans Art 31 - assessment report」, 2.2. Quality aspects]

 

TEAから生成するDEAは、いくつかのパターンが考えられています。

  1. TEAが分解してDEAが生成する
  2. TEA原料の不純物としてDEAが含まれる
  3. TEAとニトロニウムイオンが反応し、DEAが生成する

 

パターン3では、酸性条件下で亜硝酸ナトリウムから生じるニトロニウムイオンとTEAが反応し、分解することでDEAが生成します。

生成したDEAとニトロニウムイオンが反応することで、NDEAが生成すると考えられています。(スキーム3

ジエチルニトロソアミン生成経路

スキーム3

 

ラニチジン、ニザチジンからのニトロソアミン類の生成経路

2019年に、ヒスタミンH2受容体拮抗薬であるラニチジン塩酸塩の製剤及び原薬からNDMAが検出されたことが報告されました。

これに伴い国内では、厚生労働省からラニチジン塩酸塩とラニチジンと類似の化学構造を有するニザチジンに対し、NDMAの管理指標が設定されました。[参考:厚生労働省「ラニチジン塩酸塩における発がん物質の検出に対する対応について」]

 

成分名、及び構造式を下表にまとめています。

両者は、NDMAの元となるN-ジメチル構造とニトロ基を有していることが特徴です。

成分名 構造式
ラニチジン ラニチジン
ニザチジン ニザチジン

 

ラニチジンにおけるNDMAの生成経路は、ラニチジン自身の構造によるとものと考えられています。ニザチジンの類似した構造を持つことから同様の現象が起きていると考えられます。

ラニチジンからのNDMA生成経路

 

NDMAは、通常の保管条件でも増加することが確認されています。さらに、流通から消費者の取扱い時を含め、高温にさらされると大幅に増加することが判明しています。[参考:FDA「FDA Requests Removal of All Ranitidine Products (Zantac) from the Market」]

 

また、第三者機関による評価においても、130℃の温度条件下でラニチジン自身が反応してNDMAが生成されることが、実験的にも示唆されています。[参考:Valisure「Valisure Citizen Petition on Ranitidine」]

ただし、これらの文献では、ラニチジン自身の分解機構は明らかにされていません 。

 

メトホルミン塩酸塩からのニトロソアミン類の生成経路

2019年12月に、シンガポール保健科学庁(HSA)より、ビグアナイド系経口血糖降下薬であるメトホルミン塩酸塩の製剤からNDMAが検出されたことが報告されました。

これに伴い国内では、厚生労働省からメトホルミンを含有する製剤に対し、NDMAの管理指標が設定されました。[参考:厚生労働省「メトホルミン塩酸塩における発がん物質の検出に対する対応について」]

 

メトホルミンにおけるNDMAの生成経路又は混入経路は、明確ではない部分多いです。

FDAでは現在原因を調査中で、「メトホルミンの医薬品有効成分がNDMAの主要な供給源であるとは考えていない」と報告しています。[参考:FDA「Questions and Answers: NDMA impurities in metformin products」, What is the source of NDMA in metformin?]

 

厚生労働省の依頼により、メトホルミン塩酸塩の製剤を提供する、国内の製薬メーカーにおいて、NDMAの分析が実施されました。

いくつかの製薬メーカーの一部のロットにおいて、限度値を超えるNDMAが検出され、自主回収が行われました。ただし、いずれの医薬品においても服用された患者さんでNDMAに関連した重篤な健康被害等の報告は受けていないとのことです。

NDMAの生成経路又は混入経路については、「原因調査中」のメーカーが多数を占めます。

「明確ではないが、製品のPTPアルミ箔の錠剤接触面の印刷インクに含まれるニトロセルロース系樹脂由来の物質が、錠剤中の原薬に僅かに残留していた原料であるジメチルアミンと反応してNDMAが生成された可能性がある」と報告しているメーカーもありましたが、国内製薬メーカーでも原因の特定には至っていないのが現状でした。

その後の調査で、製造工程で使用される原薬に含まれるジメチルアミン(不純物)と大気中の二酸化窒素が、メトホルミン製剤中のNDMAの生成に大きな影響を与えていることが示唆されました。

[参考:ACS Publications「N-Nitrosodimethylamine Formation in Metformin Drug Products by the Reaction of Dimethylamine and Atmospheric NO2」]

 

まとめ

サルタン系医薬品、ラニチジン・ニザチジン、メトホルミン塩酸塩からのニトロソアミン生成経路について解説しました。

以下にまとめます。

サルタン系医薬品からのニトロソアミン生成経路

  • N-ニトロソジメチルアミン(NDMA):合成で使用されるジメチルホルムアミドから生成するジメチルアミンと、酸性条件下で亜硝酸ナトリウムから生成するニトロソニウムイオンの反応
  • N-ニトロソジエチルアミン(NDEA): 合成で使用されるトリエチルアミンから生成するジエチルアミンと、酸性条件下で亜硝酸ナトリウムから生成するニトロソニウムイオンの反応

 

ラニチジン・ニザチジンからのニトロソアミン生成経路

  • NDMA:医薬品原薬自身の分解(これらの化合物は、N-ジメチル構造とニトロ基を有する)

 

メトホルミン塩酸塩からのニトロソアミン生成経路は、一部の研究において原薬中に含まれるジメチルアミンと大気中の二酸化窒素によるものと判明しました。

医薬品の合成において上記の試薬を含むスキームを利用する場合、発生源となる可能性がある構造を有する原薬の場合、発生源となる不純物を含む場合には、ニトロソアミン類の管理に留意しておくことが重要と考えられます。

医薬品原薬・製剤を研究開発する方の参考になれば、幸いです。

 

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