JavaScript is disabled. Please enable to continue!

Mobile search icon
Clinical Testing >> お知らせ >> 新しい糖尿病治療薬SGLT-2阻害剤の競争が激化~アステラス製薬はMSDと、各社の提携が進む

新しい糖尿病治療薬SGLT-2阻害剤の競争が激化~アステラス製薬はMSDと、各社の提携が進む

Sidebar Image

アステラス製薬は2013年9月2日、開発を進めてきたナトリウム依存性グルコース共輸送体ー2(SGLT-2)阻害剤であるイプラグリフロジンL-プロリン(開発コード:ASP1941)の日本におけるコ・プロモーション契約をMSDと締結したと発表した。糖尿病治療薬では、ジペプチジル・ペプチダーゼ4(DPP-4)阻害薬が急成長している中で、新しい作用機序のSGLT-2阻害剤についても、各社の提携に注目が集まっていた。トップ製品のリン酸シタグリプチン水和物(「ジャヌビア」)を有するMSDがイプラグリフロジンをコ・プロモーションすることになり、今後、糖尿病領域でのMSDの優位性がさらに高まると予想される。

 

シタグリプチンが国内市場占有率6割超

DPP-4阻害剤は、既存の治療薬とは異なり、血中グルコース濃度依存的なインスリン分泌促進作用を有すために低血糖の発症が少なく、体重増加もないという特徴を有している。そのため、米国で07年4月に発売となったファースト・イン・クラスのシタグリプチンは、承認わずか3年目でブロックバスターの仲間入りを果たした。医療ニーズを満たしたシタグリプチンは、2012年には売上げ40億8600万ドル、その合剤も16億5900万ドルとなり、米国メルク社においてのナンバー・ワン製品の座をつかむのである。  国内のDPP-4阻害剤の発売動向を見ると09年12月に、やはりシタグリプチンが最初に登場した。2ブランドで販売され、小野薬品工業での商品名は「グラクティブ」である。次いで10年4月にビルダグリプチン(「エクア」、ノバルティスファーマ)、同年6月に安息香酸アログリプチン(「ネシーナ」、武田薬品工業)、11年9月にリナグリプチン(「トラゼンタ」、日本ベーリンガーインゲルハイム/日本イーライリリー)、12年9月に臭化水素酸テネリグリプチン水和物(「テネリア」、田辺三菱製薬/第一三共)、12年11月にアナグリプチン(「スイニー」、三和化学研究所/興和)、今年に入り7月にサキサグリプチン水和物(「オングリザ」、協和発酵キリン)が上市した。

 

2012年におけるDPP-4阻害剤の市場は、前年同期比81%増の1,540億円。その特徴を見ると、わずか3年半の短い間に7成分8品目が投入されたにもかかわらず、シタグリプチンが断トツの売上げとなっていることである。MSDと小野薬品の売上げの合算は948億円で、市場占有率は62%となり、第2位のアログリプチンの21%、3位のビルダグリプチンの10%を大きく離している。シタグリプチンの国内売上げの進捗を見ると、海外のそれと比較して早いことがわる。シタグリプチンは、①画期的なファースト・イン・クラスの薬剤であること、②海外での実証を積んでの国内発売となったことで糖尿病に関わる医療関係者の関心が非常に高かったこと、③大型新薬の開発に失敗し、既存製品がジェネリック製品の攻撃に苦しんでいた小野薬品との併売であったことが市場浸透率を高める結果となったと見ている。また、最近、新薬全般に言えることでもあるが、ファースト・イン・クラスの薬剤が、薬効、副作用、投与回数などに関してベスト・イン・クラスに近い仕上がりをもって上市されるようになってきた。シタグリプチンもまさにファースト・イン・クラスであり、ベスト・イン・クラスの薬剤であり、競業品の追随を大きくは許していない要因になっている。また、腎排泄型であるシタグリプチンについては「血液透析又は腹膜透析を要する患者を含む重度腎機能障害のある患者」への投与は禁忌であった。このことから胆汁排泄型のリナグリプチンが有利に展開するのではないかとの推測もあったが、通常用量50mgの4分の1の12.5mgを重度腎機能障害患者に投与するために25mg錠の割線入り製剤への変更の承認を13年6月に取得した。このことで、攻められる前に弱点を手当した。重度腎機能障害のある患者への投与禁忌が解除となり、慎重投与に変更された。この承認によって、リナグリプチンが胆汁排泄型の特徴を前面に押し出して一気に市場を奪うことは無くなったと見ている。

 

 

SGLT-2阻害剤とDPP-4阻害剤との比較試験

DPP-4阻害剤については、国内で7成分8品目が上市した。そして、市場占有率6割を超えるシタグリプチンであるが、その競業品は他のDPP-4阻害剤では無く、むしろSGLT-2阻害剤になると、比較試験の結果から考えている。

 

米国で初めて承認されたSGLT-2阻害剤はカナグリフロジンである(2013年3月)。カナグリフロジンの17カ国、140施設での国際多施設二重盲検フェーズⅢ試験においては、メトホルミンとスルホニルウレア(SU)剤を併用している2型糖尿病患者を対象にシタグリプチンまたはカナグリフロジンがランダムに割り付けられ、52週間観察されている(n=756)。患者背景は、平均年齢56.7歳、男性の割合55.9%、平均体重88.3kg、平均ヘモグロビンA1c(HbA1c )8.1%、糖尿病の平均罹病期間9.6年であった。解析の結果、主要評価項目としたベースラインから52週後までのHbA1cの平均変化は、シタグリプチン群-0.66%、カナグリフロジン群−1.03%で、両群の差は-0.37%となり信頼水準(95%CI)の上限が事前設定した非劣性マージン0.3%未満であった。このことから、シタグリプチン群に対しカナグリフロジン群の非劣性が示されたのである。一方で、平均HbA1cについては、カナグリフロジン群のシタグリプチン群に対する優位性が認められた。

 

空腹時血漿グルコース濃度(FPG)、体重、血圧についてもベースラインから52週の平均変化を評価した。その結果、両群間の平均変化の差はFPG-26.5mg/dL、体重-2.4kg、収縮期血圧-5.9mmHgで、シタグリプチン群に比べてカナグリフロジン群で有意な減少が認められている(いずれもp<0.001)。

 

一方、安全性については、低血糖を含む有害事象、重篤な有害事象、有害事象による試験中止は両群で同等であった。尿路感染症については、今回の試験ではシタグリプチン群21例、カナグリフロジン群15例とカナグリフロジン群でわずかに少なく、いずれの群でも重症例は認められなかった。しかし,生殖器真菌感染症については、カナグリフロジン群では男性の亀頭炎などが19例、シタグリプチン群では1例、女性の外陰膣炎などが26例、シタグリプチン群では計7例とシタグリプチン群に比べて多かった。また、頻尿症の浸透圧利尿はシタグリプチン群5例、カナグリフロジン群9例であった。

 

メトホルミンとSU薬を併用する血糖不良の2型糖尿病患者に対する52週に及ぶ上乗せ薬として、シタグリプチンと比べてカナグリフロジンではHbA1c値のみならず、FPG、体重、収縮期血圧の改善効果の可能性が示唆された。その一方で、生殖器真菌感染症や浸透圧利尿症はカナグリフロジン群で多く認められた。副作用が軽微なものであれば、現行のシタグリプチンとの併用療法に対してカナグリフロジンの臨床的価値を認める結果と評価できる。

 

また、SGLT-2阻害剤のエムパグリフロジン単独投与とシタグリプチンの単独投与を比較する国際フェーズⅢ試験の結果がLancet diabetes-endocrinologyのオンライン版で発表された(2013年9月9日)。このフェーズⅢは日本を含むアジア、米州、欧州の9カ国において並行群間ランダム化対照二重盲検試験で実施された(n=986)。対象は3カ月以内に糖尿病治療薬の投与を受けていない、食事療法・運動療法下でも血糖管理が不良の2型糖尿病患者。対象者は1:1:1:1の割合でランダムにプラセボ群、エムパグリフロジン10mg群、エムパグリフロジン25mg群、シタグリプチン100mg群のいずれかに割り付けられた。いずれも1日1回投与とし、試験期間は24週とした。有効性の主要評価項目は24週時点におけるHbA1cのベースラインからの変化、2次評価項目は体重および収縮期/拡張期血圧の変化に設定された。

 

その結果、HbA1c値の変化率のプラセボ群との差は、エムパグリフロジン10mg群で-0.74%(95%CI:-0.88〜-0.59、p<0.0001)、エムパグリフロジン25mg群で-0.85%(同-0.99〜-0.71、p<0.0001)、シタグリプチン群で-0.73%(同-0.88〜-0.59、p<0.0001)と実薬3群のHbA1c値は有意に低下した。エムパグリフロジン2群とシタグリプチン群間では同等であった。ただし、ベースラインのHbA1c値が8.5%以上の患者群の場合、HbA1c値の変化率を検証したところ、エムパグリフロジン10mg群で-1.44%(同-1.64〜-1.23)、エムパグリフロジン25mg群で-1.43%(同-1.65〜-1.21)、シタグリプチン群で-1.04%(同-1.25〜-0.83)となり、エムパグリフロジン2群におけるHbA1c値の低下率はシタグリプチン群より大きい興味ある結果となった。

 

体重および腹囲については、エムパグリフロジン2群の低下率はプラセボ群やシタグリプチン群より大きく、探索的な評価項目として設定したFPGの低下についてもエムパグリフロジン2群でプラセボ群やシタグリプチン群より大きかった。収縮期血圧の変化については、エムパグリフロジン2群でプラセボ群やシタグリプチン群より大きいとのデータが示された。しかし、拡張期血圧ではエムパグリフロジン2群とプラセボ群とで差はなかった。

 

また、有害事象はプラセボ群の140例(61%)、うち重症は4例、重篤は6例、エムパグリフロジン10mg群の123例(55%)、重症8例、重篤8例、同25mg群の135例(60%)、重症7例、重篤5例,シタグリプチン群の119例(53%)、重症5例、重篤6例で認められた。

 

今回の試験で、エムパグリフロジンの単独療法がカナグリフロジンの併用試験と同様に、同等のHbA1c値の改善率をもつこと、DPP-4阻害剤のシタグリプチンよりも高い体重減少率を示し、臨床上好ましい効果が示された。

 

MSDが牙城を築くのか、田辺三菱/三共が阻止をするのか

さて、今後の国内の糖尿病治療薬市場は、トップ製品であるシタグリプチンを保有するMSDがイプラグリフロジンのコ・プロモーションの権利を獲得したことで、予想勢力図が大きく変わることになりそうである。

 

糖尿病治療は、経口血糖低下薬から注射剤のグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)受容体作動薬に、最終的にはインスリン製剤に移行するが、できるだけその移行を遅らせることが臨床上では大切とされる。となると、経口血糖低下薬の重要性は高まる。経口血糖低下薬の新薬であるDPP-4阻害剤とSGLT-2阻害剤であるが、臨床上はどのような棲み分けが図られるかによって市場性が異なってくる。前述した試験の結果を反映して、DPP-4阻害剤は軽度の患者に、SGLT-2阻害剤は肥満症の患者やHbA1cのより高い患者を中心に処方されるように棲み分けが進むとなると、両剤を保有している企業は一定の勢力を持つことになるとみられる。

 

シタグリプチンは、「ファースト・イン・クラス」「海外での実績」「併売」の条件を揃えたことで市場占有率を高めた。SGLT-2阻害剤についても優位に展開できる条件は同様と考えられる。さらに「DPP-4阻害剤やその他薬剤による営業アクセスの数」が加わってくる。

 

当初、「海外での実績」と「併売」の条件を満たすことから、トップ製品候補として筆頭に挙げられていたのは、田辺三菱製薬のカナグリフロジンである。カナグリフロジンについては、ジョンソン エンド ジョンソン傘下のヤンセン・ファーマシューティカルズが2013年3月に米国で承認を獲得して、直ちに処方を開始した。DPP-4阻害剤の発売時のときよりも処方箋数の立ち上がりが早いとされ、出だしは好調である。欧州でも2012年6月に申請、11月に承認を取得した。国内発売時には、海外評価が積み上がっていることになる。田辺三菱製薬は国内の販売で、第一三共と組んだ。2012年3月に販売提携契約の締結を発表している。国内で強力な販売基盤を持つ第一三共と提携することで、4,000人ものMRを確保し、医療機関への情報提供を強化することができる。ただし、第一三共と共販するも自社創製のDPP-4阻害薬のテネリグリプチンの12年の売上げは推定10億円未満と営業アクセスという点からは弱く、今後の課題とされるところである。カナグリフロジンは2013年5月に申請されたが、順番としては4から5番手。承認が遅れると売上げに影響が出ることも考えられる。

 

一方、MSDがイプラグリフロジンのコ・プロモーションを得たことで、イプラグリフロジンの市場価値は高まった。契約の内容は明らかにされていないが、糖尿病治療薬で大型品を持たないアステラス製薬にとってもベストパートナーと言える。イプラグリフロジンもHbA1c値の改善、体重減少効果が立証されている。イプラグリフロジンの1日1回50mgの16週間投与の単剤のフェーズⅢ(n=129)におけるHbA1c値のベースラインの変化量は-0.76%、プラセボ群は+0.47%であった(p=0.001)。日本人のSU剤またはピオグリタゾンの単独療法にて血糖管理不十分な2型糖尿病患者を対象とした二重盲検並行群間比較試験では、イプラグリフロジン50mgまたはプラセボを1日1回、24週間、血糖降下剤と併用投与した際の有効性および安全性が評価された。主要評価項目であるベースラインからのHbA1c値低下量の差はSU剤で1.14%、ピオグリタゾンで0.88%であった(ともにp<0.001)。さらに、イプラグリフロジンの投与によって統計的に有意な体重減少作用も認められ、体重減少量のプラセボ群との差はSU剤で1.32kg、ピオグリタゾンで2.79kg(ともにp<0.001)となった。2013年3月に国内で最初に申請された候補だけに審査が順調に進めば、ファースト・イン・クラスの薬剤となる確度は高い。シタグリプチンを有するMSDがプロモーションをすることから相乗効果は高い。ただし、海外の開発は2012年11月にフェーズⅡ段階での中止が発表されたため、海外実績を積み上げることはできない。一方の田辺三菱製薬と三共は、海外実績を武器に拡販を進めることになる。

 

国内申請の時期を見ると、2013年4月には大正製薬のルセオグリフロジン水和物と中外製薬のトホグリフロジン水和物(コード番号:CSG452)、カナグリフロジンは5月に、正式な申請日について公表はしていないものの、ブリストル・マイヤーズとアストラゼネカが国内開発を進めるダパグリフロジンも2013年7月までに申請がなされたことが判明している。長くとも5カ月の間に同じ作用機序の化合物が6品目申請されたことになる(表)。複数品目が同時承認となる可能性もある。

 

表.ナトリウム依存性グルコース共輸送体2(SGLT-2)阻害薬の開発状況

表_ナトリウム依存性グルコース共輸送体2(SGLT-2)阻害薬の開発状況

 

中外製薬は、12年10月に興和およびサノフィと組んだ。トホグリフロジンの承認申請および販売については興和とサノフィの2社が各々の製品名で行い、中外製薬は2社に対して製品を供給することになった。大正製薬も11月にルセオグリフロジンの販売を連結子会社の大正富山医薬品とノバルティス ファーマ共同で行うことを決定した。ノバルティス ファーマは経口血糖降下薬であるDPP-4阻害薬ビルダグリプチンを販売しており、ルセオグリフロジンの共同販売で製品ラインアップの強化につなげたいところだ。

 

武田薬品の動向はいかに

さて、糖尿病領域では、アログリプチン、塩酸ピオグリタゾン(「アクトス」)、ボグリボース(「ベイスン」)の自社創製品を持つ武田薬品の動きに注目が集まっていた。しかし、イプラグリフロジンがMSDのプロモーションとなった現時点で、武田薬品が国内でSGLT-2阻害剤を販売する可能性は無くなった。武田薬品は新しい作用機序のGPR40作動薬TAK-875のフェーズⅢ試験を進めている。TAK-875の国内発売は早ければ2015年になるであろうから、2014年に発売となると予想されるSGLT-2阻害剤の導入よりも自社創製品TAK-875を優先したということなのであろう。一方で、血糖依存性ではないSGLT-2阻害剤を導入し、品揃えを充実させる営業戦略を取るべきとの考え方もできる。果たして海外市場では、武田薬品はSGLT-2阻害剤を導入するのであろうか。それとも国内と同様にTAK-875に注力するのであろうか。世界的にも糖尿病領域に強い武田薬品の動向に注目が集まる。

 

 

 

なお、本件に関するお問い合わせは、お問い合わせフォームよりお願いいたします。