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【ASCO2013】若手技術研究員によるレポート~肺がん患者における遺伝子変異

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肺がんは、がん細胞の形態によって小細胞肺がん(SCLC)と非小細胞肺がん(NSCLC)に分類され、非小細胞肺がんからさらに腺がん、大細胞がん、扁平上皮がんの3つに分類されます。非小細胞肺がんにおけるがんの進行は小細胞肺がんと比べて比較的穏やかだとされていますが、化学療法や放射線療法に対する反応は悪いとされています。

今年のASCOでは全体で5,306演題が発表されましたが、そのうち非小細胞/小細胞/その他胸部がんに関する演題が211、非小細胞肺がん転移に関する演題が303、肺がん関連分野は全体の約10%を占めていました。近年、進行非小細胞肺がんについては患者のEGFR遺伝子変異検査の成績、あるいは世界各国におけるEGFR遺伝子変異割合を評価する試験が実施されるなどしています。

EGFR変異やALK遺伝子融合に対するスクリーニング検査に基づき、進行したNSCLC患者においては個別化医療が現実的なものとなりつつあります。「Biomarkers France試験:NSCLC患者10,000例におけるEGFRHER2KRASBRAFPI3KCA遺伝子変異解析とEML4-ALK融合遺伝子の評価」と題した、Fabrice Barlesiらの2013年1月における最新データの発表を、以下にご紹介します。

 


 

Biomarkers (BM) France: Results of routine EGFRHER2KRASBRAFPI3KCA mutations detection and EML4-ALK gene fusion assessment on the first 10,000 non-small cell lung cancer (NSCLC) patients (pts).
Fabrice Barlesi et al.
Abstract #8000

 

10,000例のデータが集められ、そのうち9,464名の患者と9,911例のサンプルが解析された。得られたデータの患者内訳は63.8%が男性、喫煙者は83.3%、ステージⅣの患者は64%であった。サンプルの内訳は76.1%が腺がん、採取方法は気管支鏡検査(27.4%)、外科的(28.1%)もしくは経胸郭生検採取(24.2%)だった。サンプル採取から解析までに8日間、解析結果には11日間を要した。

 

9,911例のサンプルのバイオマーカーを評価した結果、9.5%がEGFR(その内0.8%がEGFR耐性)、0.9%がHER2変異、27%がKRAS変異、1.7%がBRAF変異、2.6%がPI3KCA変異で、3.7%はEML4-ALK融合遺伝子であった。二重変異はサンプルの79例でみられ、KRASとEGFRの重複変異が5例、KRASとALK融合遺伝子の重複変異が10例、PI3KとEGFRの重複変異が16例、PI3KとKRASの重複変異が33例であった。

 

さらに、口頭発表の中で、喫煙者と非喫煙者における遺伝子変異を比較した結果が示された。喫煙者では31.7%でKRAS変異、4.2%でEGFR変異、3.5%でALK遺伝子融合が見られたのに対して、非喫煙者では33.2%にEGFR変異(その内3.1%でEGFR耐性)、9.6%でKRAS変異、9.7%でALK融合遺伝子が見られることが示された。

 

また、NSCLC患者の腫瘍プロファイリングが活用可能なものであること、今後、2013年9月には19,000例の解析を目指していることが述べられた。また、腫瘍プロファイリングによってサンプルの46%でEGFRといった遺伝子を含む、既知の標的遺伝子が同定されたことを結論とした。

 


 

 

この試験結果は、9,464名の患者のうちアジア人が占める割合は1.2%、その他が98.8%となっており、民族性の違いについては触れられていません。この試験結果を日本国内患者に対して同様に当てはめることはできないものの、EGFR変異やALK遺伝子融合の他にここで述べられたHER2KRASBRAFPI3KCA遺伝子が新たな指標としてさらに注目されるでしょう。また、喫煙者と非喫煙者によって患者検体における遺伝子変異の様相に大きな差異があると示された点も興味深いと感じました。患者のステータスに応じて治療法を選択していくことが将来的に重要になってくるでしょう。

一方、小細胞がんにおける遺伝子変異については、「日本人患者における小細胞肺がんの分子プロファイリング」と題された、60例の日本人小細胞肺がん患者における遺伝子プロファイリングの結果を示した和久田一茂らの発表をご紹介します。

 

 


 

Molecular profiling of small cell lung cancers in Japanese patients.
Kazushige Wakuda et al.
Abstract #7599

 

ここ10年で肺腺がんの遺伝子異常が一部明らかにされ、肺腺がんの診断や治療のパラダイムシフトへと導かれているが、小細胞肺がん(SCLC)の分子的プロファイリングについての報告はほとんどなされていない。胸部のSCLC悪性腫瘍がある患者における遺伝子変異解析を行い、その解析結果が発表された。

まず、バイオバンキングシステムからSCLC分子プロファイリングデータを集めた。EGFR、KRAS、BRAF、PIK3CA※1、NRAS、MEK1、AKT1、PTEN、HER2の9つの遺伝子におけるG719やexon19といった23の部位における変異、EGFR、MET、PIK3CA、FGFR1とFGFR2における遺伝子増幅や、ALK、RET、ROS1での遺伝子融合が評価された。評価は、パイロシーケンシング法※2に加えて、キャピラリー電気泳動、qRT-PCRやRT-PCR法を用いて行われた。また、SCLC患者の遺伝子変異状態を調べるため、診療記録から患者の特徴的な臨床データが集められた。

データは2011年7月から2012年7月の間に、60名のSCLC患者が評価された。患者の特徴は、以下のとおりであった。平均年齢は69歳、年齢範囲は43歳から82歳。83%が男性、喫煙者は96%、腫瘍の増殖様式は限局型(limited disease)※3が52%、進展型(extensive disease)※3が48%、組織像は小細胞がんが95%、混合性の小細胞がんと腺がんが5%、外科的に摘除された新鮮凍結組織が8サンプル、FFPEサンプルが50サンプルと胸水が7サンプルであった。

全60例のうち、9例(15%)でドライバー遺伝子変異が検出された。発見された変異は、EGFRが1例(2%)、KRASが1例(2%)、PIK3CAが3例(5%)、AKT1が1例(2%)、MET増幅が1例(2%)、PIK3CA増幅が6例(12%)だった。1例ずつ見つかったEGFR変異とKRAS変異は、混合性の小細胞がんと腺がんの患者サンプルでみられた。

患者の臨床的特徴と遺伝子変異との相関は、年齢や性別、診断時における疾患や喫煙状況では、遺伝子変異を有する患者と変異のない患者との間で統計学的有意差はみられなかったが、血清中のNSE(小細胞肺がんの腫瘍マーカー、神経特異的エノラーゼ)やPro-GRPレベルでは変異をもたない患者で有意に高かった(NSE: p=0.02、Pro-GRP:p=0.04)。

SCLC患者の21.4%でPIK3CA増幅が検出されたことが既に報告されており、PI3K※4シグナル伝達経路は、ヒト腫瘍の細胞増殖と生存において中心的な役割を果たしている。PIK3CA遺伝子は、Class IA PI3Kα触媒サブユニットのらせん状もしくはキナーゼドメインをコード化する。Class IA PI3Kを標的とする薬剤のフェーズI研究が進行中である。

この研究における解析では、遺伝子変異はSCLC患者の15%でみられ、PIK3CA増幅はSCLCでは相対的に高い頻度でみられる。こうした結果はPIK3CAがSCLC患者の治療標的になりうることを示しており、SCLCの分子学的プロファイリングのさらなる調査が求められるとした。

 


 

 

この試験では解析例が60例、そのうち96%が喫煙者です。SCLC患者の遺伝子変異の様相をより確実に理解するにはさらに多くの症例数と幅広い患者層における解析が求められるでしょう。今後も分子標的治療へ注目が集まることは間違いなく、分子マーカーの重要性は年々増していると感じられました。


※1 PIK3CA:ホスファチジルイノシトール-4,5-二リン酸 3-キナーゼ触媒サブユニットαポリペプチド遺伝子
※2 Pyrosequencing法:合成による配列決定であり、DNA配列の正確で定量的な分析に使用する技術
※3 SCLCの臨床病期:一般的なTMN分類のほかに,治療方針選択の面から限局型(limited disease: LD)と進展型(extensive disease: ED)に分けられる。LDは、腫瘍が一側胸腔内・同側肺門リンパ節・両側縦隔リンパ節および鎖骨上窩リンパ節に限局している場合であり、それ以外の場合をEDと定義される。
※4 PI3K:ホスファチジルイノシトール3キナーゼ

 

米臨床腫瘍学会(ASCO:American Society of Clinical Oncology)’13年次集会2013/5/31~6/4@シカゴ)

 

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