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【ASCO2013】若手技術研究員によるレポート~PI3Kシグナル伝達経路

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現在、がんの新薬開発の主役は分子標的治療薬であり、中でも細胞増殖に関わる増殖シグナル経路(ERK-MAPK経路)や、細胞の生存に重要な役割を持ち細胞死を抑制する生存シグナル経路(PI3K-Akt経路)をターゲットとし、その経路を遮断する阻害剤が開発されています。 

PI3K-Akt経路の恒常的な機能亢進は卵巣がん、大腸がん、前立腺がん、神経膠芽腫など多くの腫瘍において認められています。乳がんでも同様の機能亢進がみられ、PI3K変異と関連していることがわかっています。各製薬メーカーでPI3K阻害剤が開発されており、臨床試験が進んでいますが、ここでは固形がん患者を対象とするPI3K阻害剤の臨床試験結果についてのAna M. Gonzalez-Anguloらによる報告「PI3Kのα-アイソフォームの阻害剤であるBYL719の安全性、薬物動態、予備的効果:最初の第I相臨床試験結果」を取り上げます。

 


 

Safety, pharmacokinetics, and preliminary activity of the α-specific PI3K inhibitor BYL719: Results from the first-in-human study.
Ana M. Gonzalez-Angulo et al.
Abstract #2531

 

BYL719はPIK3CA遺伝子でコードされるPI3Kの触媒サブユニット、p110αに作用する経口投与可能な低分子阻害剤である。PI3Kは膜構成成分であるイノシトールリン脂質のイノシトール環3位のリン酸化を媒介する脂質キナーゼであり、ほ乳類ではクラスIA、クラスIB、クラスII、クラスIIIの4つのサブクラスに分類される。クラスIAは、SH2を有する制御サブユニットと触媒サブユニットからなる二量体として存在し、p110αは触媒サブユニットのうちの一つである。BYL719は変異PI3Kαを持つがん細胞株の増殖をin vitroで阻害し、in vivoではPIK3CA-変異がんモデルで腫瘍退縮を引き起こす事が知られている。

今回の用量漸増オープンラベル多施設共同フェーズ1試験では、変異や増幅を含むPIK3CAの体細胞変異を有する進行固形がん患者を対象として実施された。1サイクル28日で、1日1回または2回、BYL719を経口投与した。投与量は、1日1回投与の場合、30、60、90、180、270、350、400、450mg、1日2回投与では120、150、200mgとした。主要評価項目は、最大耐用量(MTD)の決定と変異型PIK3CA陽性の進行固形がん患者におけるフェーズ2試験での推奨投与量の決定であった。副次評価項目は、BYL719の安全性と忍容性、薬物動態プロファイル、予備的な有効性の検討であった。

 

 

2013年2月15日時点で、102人の進行固形がん患者に対しBYL719を投与し、1日1回投与は84人、1日2回投与は18人が登録された。患者の臨床的特徴は年齢中央値が59歳、女性76%、WHO パフォーマンスステータスは 0が37%、1が61%であった。原発部位は、大腸がん30%、乳がん24%、卵巣がん13%、頭頸部がん9%、その他が25%だった。PIK3CA変異型が96%、野生型が1%、不明が3%、PIK3CAの増幅は1%だった。登録患者の25%は術後補助療法もしくは術前化学療法を前治療として受けていた。

BYL719による治療経過では86%の患者で投与が途中で中止され、14%は試験継続中である。主な投与中止理由は、病勢進行が68%、有害事象が16%であった。試験中に1名が死亡したが、今回の試験との直接の因果関係は否定的である。投与量増量試験で36名の患者が1日450mgまで投与量を受け、その結果9名中4名の患者が用量規定毒性(DLTs)を示した。1日1回の投薬に関するMTDは400 mgに決定された。2012年11月20日の時点で、DLTsは高血糖、嘔気、嘔吐、下痢で、最も一般的なBYL719の有害事象は高血糖が49%、嘔気45%、下痢40%、食欲減退38%、嘔吐30%、疲労27%であった。39名の患者がMTD投与量増量コホートに登録され、1日2回の投与計画調査は現在も実施されている。

部分寛解は1日270mg以上の投薬を受けた9名の患者で認められた。内4名の部分寛解は確実で、2名はER陽性乳がん患者と大腸がん患者で1日1回270mgの投薬を受けていた。その他、2名は子宮内膜がんと子宮頸がん患者で、1日1回400mgの投薬を受けていた。一方、9名のうち残りの5名の部分寛解は確定的では無いが、トリプルネガティブ乳がん(ER陰性、PR陰性、HER2陰性)、ER陽性乳がん、頭頸部がん患者の3名は、1日1回400mgの投薬を受けていた。残りの2名は450mg1回投与の外毛根鞘がんと200mg2回投与の卵巣がんである。腫瘍縮小効果は乳がんと頭頸部がんで最も高かったが、大腸がんでは腫瘍縮小は認めないか、病勢が進行する傾向を認めた。1日270mg以上投与した患者における無増悪生存期間(PFS)中央値は15.7週間で、このうちER陽性の乳がん患者(21人)は24.0週間、大腸がん患者(23人)は7.9週間、その他のがん種(36人)は15.4週間だった。

 

 

以上の結果から、BYL719単剤投与はPIK3CA変異を有する進行固形がん患者で良好な安全性を示した。観察された薬剤有害事象は高血糖が最も頻度が高く、1日1回のBYL719単剤投与のMTDは1日あたり400mgと決定された。試験における臨床効果では、未確定的なものも含め部分寛解は9名の患者でみられた。1日2回BYL719投薬のMTDについては現在研究続行中である。

 


 

多様な遺伝子解析技術が進歩し、がん患者の臨床的な特徴やがんの組織型、増殖や転移と遺伝子変異との関連が解析されています。例え同一の組織型のがんでも、遺伝子変異の違いによって細分化されつつある様です。画一的な治療法から個々の患者のがんの特徴に合った個別化治療へ、がんの遺伝子型に応じた治療薬の開発が今、まさに進んでいます。遺伝子解析は必要不可欠な技術であり、今後も簡便な解析法の開発や解析技術革新の重要性は高まっていくことでしょう。

 

米臨床腫瘍学会(ASCO:American Society of Clinical Oncology)’13年次集会(2013/5/31~6/4@シカゴ)

 

 

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