これまでのPFAS規制の歴史と動向は?現状と今後の規制を予測

投稿日:2024年8月1日(2025年8月20日更新)
PFAS(有機フッ素化合物)は、世界各国で規制が強化されている化学物質群の一つです。
日本国内でも進められているPFAS規制に対応するためには、現在規制の対象となっている化学物質の詳細や、規制に至るまでの背景について理解することが重要です。
この記事では、PFAS規制の歴史や背景、各国でPFAS規制が行われるまでの仕組み、今後のPFAS規制の動向予測などについて解説します。
INDEX
PFAS(有機フッ素化合物)とは?
PFAS(有機フッ素化合物)とは、炭素とフッ素が強力に結合することで生まれる化合物です。通称「ピーファス」と呼ばれ、約1万種類以上の物質があるとされています。
PFASの中には、撥水性や撥油性、耐熱性、化学的安定性などの性質があり、それらの特性を活かして、界面活性剤や半導体用反射防止剤等の幅広い用途で活用されてきました。
一方、自然環境で分解されず半永久的に蓄積され続ける特徴もあり、一部地域では地下水から高濃度のPFASが検知された事例も発生しています。
一部の研究報告では、人や動物の健康へ影響を及ぼすことが指摘されており、世界中で規制強化に向けた動きが強まっています。
PFASについてより詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
【関連記事】PFAS(有機フッ素化合物)とは?特徴から問題点、規制の最新動向まで
PFASが規制される理由
PFASの規制が強化される代表的な理由は、人体や生物の健康に影響を及ぼす可能性が懸念されていることです。EPA(米国環境保護庁)によれば、一定レベルのPFASに曝露されることで起こりうる健康リスクとして、以下の点が挙げられています。
- 妊娠能力の低下等、生殖への影響
- 低体重、思春期早発症など子どもの発達への影響
- 前立腺・精巣・腎臓など一定の部位のがん
- 免疫システムへの影響
- 内分泌系への影響
- コレステロール値の上昇
- 肥満リスクの上昇
また、WHO(世界保健機関)の関連機関であるIARC(国際がん研究機関)によれば、PFASのうち、PFOA(パーフルオロオクタン酸)は「グループ1(ヒトに対して発がん性がある。)」に、PFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸)は「グループ2B(ヒトに対して発がん性がある可能性がある。)」に分類されています。
しかし、PFASに該当する化学物質は1万種類以上もあり、明確な健康リスクを示す証拠については研究が進んでいない部分が多いのが実情です。
【関連記事】一度体内に取り込まれたPFASはどうなる?健康への影響と排出プロセス
PFASが規制される流れと仕組み
PFASに関してどのような規制を敷いているかは、国によって対応が異なります。
PFASの規制について理解するにあたって重要な条約の一つが、POPs条約(残留物有機汚染物質に関するストックホルム条約)です。
これは、PFOSやPFOA、PCB(ポリ塩化ビフェニル)、DDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)など、残留性有機汚染物質(POPs:Persistent Organic Pollutants)について、製造および使用の廃絶・制限、排出の制限、これらの物質を含む廃棄物等の適正処理等を規定している条約です。
2004年5月17日に50ヵ国の締結により条約が発効後、2024年12月時点で日本を含む186ヵ国およびEUが締結済みとなっています。日本を含めた条約締結済みの国では、POPs条約の改正や対象物質の追加に合わせて国内の法整備を行うのが一般的な流れです。
日本でもPOPs条約への加盟を受け、規制対象物質の追加に合わせて化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)の改正を行うことで対応しています。
しかし、米国やEU(欧州連合)など一部の国・地域では、POPs条約の制定に先駆けて独自のPFAS規制を行っています。
例えばEUでは、PFASの中でもPFCA(C9~C14のペルフルオロカルボン酸類)について、特定の用途を除いて2023年2月25日より上市が制限されているなど、POPs条約よりも厳しい規制を敷いています。
日本におけるPFAS規制は、現状PFOS・PFOA・PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)の3種類が中心となっており、米国やEUと比較して法整備が遅い側面があります。
【関連記事】PFAS(有機フッ素化合物)の規制対象物質とは?主な種類や使用用途を解説
PFAS規制の歴史
日本では化審法により、3種類のPFAS(PFOS、PFOA、PFHxS)が規制されており、国内での製造・使用・輸出入等が原則禁止されています。
化審法の規制内容はPOPs条約の掲載事項の影響を大きく受けており、POPs条約の加盟国である日本も当然ながら参照し、改正や追加掲載に合わせて対応しています。
ここからは、現状の化審法で規制されているPFASについて、規制の背景や歴史について解説します。
PFOS規制の歴史
PFOSとは「Per Fluoro Octane Sulfonicacid」の略で、日本語では「ペルフルオロオクタンスルホン酸」と呼ばれます。
分子式で表すと「C8F17SO3H」となる化学物質であり、耐熱性、耐薬品性に優れていることから以下の用途で広く使用されてきました。
- 水撥油剤
- 界面活性剤
- 半導体用反射防止剤
- 金属メッキ処理剤
- 水成膜泡消火剤
- 殺虫剤
- 調理用器具のコーティング剤
しかし、生物や人体への影響、環境中に長期間残留することが危惧され、2009年に実施されたストックホルム条約第4回締約国会議において、附属書B(制限対象)への追加掲載が決定されました。
国内においては、2010年4月に化審法における第一種特定化学物質に指定され、エッチング剤や半導体用のレジストなど一部の製造用途を除いて使用が制限されました。
その後、2018年2月に行われた化審法の改正によって例外用途の使用も廃止され、事実上国内では全ての用途で製造・製品への使用が禁止されました。
【関連記事】PFOSとはどんな物質なのか?人体への影響も含めて解説
PFOA規制の歴史
PFOAとは「Per Fluoro Octanoic Acid」の略で、日本語では「ペルフルオロオクタン酸」と呼ばれています。分子式で表すと「C8HF15O2」となり、耐熱性、耐薬品性に加えて撥水・發油性に優れていることから、以下の用途で用いられてきました。
- 繊維
- 医療
- 電子基板
- 自動車
- 食品
- 包装紙
- 石材
- フローリング
- 皮革
- 防護服
PFOAは、2019年に実施されたストックホルム条約第9回締約国会議において、附属書A(廃絶対象)への追加掲載が決定されました。
国内においては、2021年に化審法における第一種特定化学物質に指定され、製造・輸入等を原則禁止しています。
【関連記事】PFOAとは?人体への影響や各国の動向、法規制の情報について
PFHxS規制の歴史
PFHxSとは「Perfluorohexanesulfonic acid」の略で、日本語では「ペルフルオロヘキサンスルホン酸」と呼ばれます。
分子式は「C6HF13O3S」で、PFOSと同じスルホン酸に分類されるPFASであり、優れた撥水性・耐油性・耐熱性・耐久性を誇ることから、PFOS・PFOAの代替物質として以下の用途に用いられてきました。
- 泡消火薬剤
- 金属メッキ
- 織物
- 革製品及び室内装飾品
- 研磨剤及び洗浄剤
- コーティング
- 含浸/補強剤(湿気、真菌などからの保護用)
- 電子機器及び半導体の製造
近年ではPFOS・PFOAと同様に環境や人体への影響が懸念されるようになり、2022年6月に開催されたストックホルム条約第10回締結国会議で附属書A(廃絶対象)に追加されました。
国内においては、2024年2月1日に化審法における第一種特定化学物質に指定されています。これにより、現在も一部の例外を除き、製造・輸入・使用が原則禁止されています。
【関連記事】PFHxSとは?輸入が禁止される理由と対策について
今後POPs条約等で規制される可能性があるPFAS
現状の化審法におけるPFAS規制は、POPs条約の規制内容や追加対象物質に対応するかたちで改正が加えられています。そのため、今後POPs条約で規制される可能性があるPFASについても理解を深めておく必要があります。
2024年9月23日~27日の期間で行われた残留性有機汚染物質検討委員会第20回会合(POPRC20)では、炭素数が9~21からなる長鎖ペルフルオロカルボン酸(LC-PFCA)と、その塩及びLC-PFCA関連物質を規制対象に加えることがカナダにより提案されました。
これにより、2025年に開催が予定されているストックホルム条約第12回締約国会議にて、正式に勧告されることが決定しています。
厳密には、交換用部品として設計された半導体や自動車の交換用部品に使用されるLC-PFCA関連物質については適用除外としているため、現段階で正式に製造・輸出が禁止されたわけではありません。
今後のPOPs条約の規制動向によっては、化審法の改正にも大きな影響を与える可能性があります。
PFAS規制の今後の方向性を予測
現在、PFASの使用や輸出入における規制が世界各国で進められています。
特に海外諸国と輸入・輸出等の取引を行う場合、米国のTSCA(有害物質規制法)や、EUのREACH規則(化学物質の登録、評価、認可および制限に関する規則)などには十分注意する必要があります。
また、EU加盟国の中でも国ごとに独自のPFAS規制を実施・運用している場合もあるため、各国の最新動向も気に留めておくことが重要です。
国内においては、環境省や経済産業省などの省庁が発信する最新情報に注視しましょう。
環境省の資料「PFASに関する今後の対応の方向性」では、PFOS、PFOAへの対応については以下の4点を継続的に実施していく方針が示されています。
- 管理の強化等
- 暫定目標値を超えて検出されている地域等における対応
- リスクコミュニケーション
- 存在状況に関する調査の強化等
また、PFOS・PFOA以外のPFASに対しては、POPs条約で廃絶対象になっていないものも含め、存在状況に関する調査の強化等の対応を行う方針を発表しています。
今後日本で追加規制されるPFASによっては、様々な企業に対する報告義務の徹底や、データ提出などのルールが厳しくなる可能性もあります。
関係省庁から発信される情報をこまめにチェックしつつ、規制の変化に対して素早く対応できるように備えておきましょう。
PFAS規制の最新情報を常に確認しよう
国内外のPFASの規制動向は、ここ数年で大きく変化しています。
実際に全国各地で高濃度のPFOSやPFOAが検出された事例も発生しており、今後も一部のPFASを規制する動きが強まっていく可能性は高いでしょう。
今後は化審法に代表される法的な規制を遵守するだけでなく、社会全体の傾向として、日本企業がPFASへの対策を求められることが予測されます。
特にPFAS規制の影響を受ける可能性がある企業の担当者は、最新情報を確認して早めに対策を進めることが推奨されます。
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【参考資料】
- 国際がん研究機関(IARC)の概要とIARC発がん性分類について
- パーフルオロ化合物(概要) ファクトシート
- Our Current Understanding of the Human Health and Environmental Risks of PFAS|EPA
- PFAS に関する今後の対応の方向性 令和5年7月・PFAS に対する総合戦略検討専門家会議
- POPs条約|経済産業省
- ストックホルム条約 | POPs|環境省
- 化審法に関するトピック(POPs条約の動向や化審法による規制措置の今後の見通し等)|経済産業省製造産業局化学物質管理課化学物質安全室
- ANNEX XVII TO REACH – Conditions of restriction|ECHA
- PFOS、PFOA に関するQ&A集 2024 年8月時点
- PFAS の概況と今後の対応
- Perfluorooctanesulfonic acid | C8F17SO3H | CID 74483 - PubChem
- PFOS、PFOA 以外の PFAS に係る国際動向|環境省
- 「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律施行令の一部を改正する政令」が閣議決定されました|経済産業省
- Perfluorohexanesulfonic acid (PFHxS) induces oxidative stress and causes developmental toxicities in zebrafish embryos|九州大学附属国際農業教育・研究推進センター
- 「ペルフルオロヘキサンスルホン酸とその塩」が使用されている製品で輸入を禁止するものの指定等について(案)|厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課化学物質安全対策室
- 残留性有機汚染物質検討委員会第20回会合(POPRC20)の結果について|環境省
- PFASに関する今後の対応の方向性(概要)|環境省
- 製品含有化学物質のリスク評価 ペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)及びその塩|環境省