JavaScript is disabled. Please enable to continue!
Mobile search icon
PFAS MEDIA >> 世界のPFASニュース >> PFASの毒性評価とは?海外と日本での最新の評価内容について解説

PFASの毒性評価とは?海外と日本での最新の評価内容について解説

Sidebar Image

投稿日:2024年7月24日(2025年3月17日更新)

勧める勧めない

PFAS(有機フッ素化合物)は、人間の健康に影響を及ぼす可能性が示唆されており、世界各国で様々な規制が進んでいる化学物質です。しかし、PFASの毒性についてはまだ分かっていないことも多く、現在も世界中で研究が進められています。

この記事では、国内外で進められているPFASの毒性評価について詳しく解説します。

 

INDEX

 

 

PFAS(有機フッ素化合物)の特徴

PFAS(有機フッ素化合物)は、撥水・撥油性や熱・化学的安定性等の物性を示す化学物質です。それらの特性を活用し、撥水・撥油剤や調理器具のコーティング剤等の用途に幅広く使われてきました。

しかし、一度環境中に放出されたPFASは分解されることなく長期間残存し続け、生物の体内にも蓄積し続ける特徴を持っています。最新の研究では、一部のPFASが人間の健康に影響を及ぼす可能性が示唆されており、世界中でPFASを規制する動きが強まっています。

PFASの特徴について詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。

 

【関連記事】PFAS(有機フッ素化合物)とは?特徴から問題点、規制の最新動向まで

PFASとは

 

 

国内で実施しているPFASの毒性評価

国内で実施しているPFASの毒性評価の仕組み

国内では、内閣府の食品安全委員会が「有機フッ素化合物(PFAS)ワーキンググループ」を立ち上げ、PFASに対する食品健康影響評価(人の健康への影響に関するリスク評価)を実施しています。

食品健康影響評価では、健康に悪影響を及ぼさない量の設定等も行っており、これまでも様々な物質に対して行われてきました。国内外の動向を受けて、PFASは2023年1月に食品健康影響評価の対象となり、翌2月にワーキンググループ設置が行われたのです。

ワーキンググループは、大学や研究施設における薬学・栄養学・環境疫学など、様々な分野の有識者から構成されており、PFASの食品健康影響評価に関する調査や議論を行っています。

会議は、現時点で計9回開催され(2023年2月〜2024年6月)、2024年6月には評価した結果をとりまとめた「評価書 有機フッ素化合物(PFAS)」を公表しました。

評価書以外にも、会議の議事録や評価に使用した資料等が公開されており、食品安全委員会のホームページから確認できます。

 

 

食品健康影響評価におけるPFASの毒性評価

食物

PFASの食品健康影響評価は、国内の化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)で第一種特定化学物質に指定されている以下3種類のPFASを中心とし、国内外で収集した2,969報の学術文献と、国内で実施した調査を踏まえて実施されました。

 

  • PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)
  • PFOA(ペルフルオロオクタン酸)
  • PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)

 

この毒性評価では、動物試験や疫学研究(ヒトでの調査結果)による評価や、PFASの指標値としてTDI(耐容一日摂取量)の設定等が行われています。

ここでは、食品安全委員会が公表した「評価書 有機フッ素化合物(PFAS)」に基づき、健康に対する影響とTDIについて解説します。

 

健康に対する影響

ワーキンググループでは、健康影響評価として取り上げるエンドポイントを、海外評価機関での評価を参考にして整理・検討を行いました。

エンドポイント毎の検討結果は以下の通りで、「血清ALT値や血清総コレステロール値の増加」「出生時体重の低下」「ワクチン接種後の抗体応答の低下」との関連性について、否定できないとの見解が示されています。

しかし、証拠が不十分等の理由でこれらの健康影響に対する指標値算出は困難とされました。

 

エンドポイント 評価結果
肝臓・脂質代謝 血清ALT値、血清総コレステロール値の増加について、影響を及ぼす可能性は否定できないものの、証拠は不十分
甲状腺機能と甲状腺ホルモン 影響があるとまでは言えない
生殖・発生
  • 疫学研究より:出生時体重低下との関連は否定できないが知見が限られている。出生後の成長に及ぼす影響については不明
  • 動物試験より:出生児への影響については証拠の確かさが強い。ただし、疫学研究における出生時体重低下とは分けて考えるのが適当
免疫 ワクチン接種後の抗体応答の低下について、可能性は否定できないものの、証拠の質や十分さに課題がある
神経 評価を行うには知見が不十分
遺伝毒性 直接的な遺伝毒性は有しない
発がん
  • PFOAと腎臓がん、精巣がん、乳がんとの関連について、証拠は限定的
  • PFOSと肝臓がん、乳がんとの関連について、証拠が不十分
  • PFHxSと腎臓がん、乳がんとの関連について、証拠が不十分

引用:「有機フッ素化合物(PFAS)」評価書に関するQ&A(2024年6月25日)|食品安全委員会

 

TDI(耐用1日摂取量)の設定

PFASの毒性評価では、食品健康影響に関する指標値についても検討しています。

海外評価機関における様々な指標値や、国内の健康に対する影響評価結果を総合的に判断し、TDIが設定されました。

TDIは「人が一生涯にわたって食品から摂り続けても健康に影響が出ないと推定される量」のことで、体重1 kgあたりの摂取量で示しています。検討の結果、以下の設定が妥当との判断がなされました。

 

  • PFOS:20 ng/kg 体重/日
  • PFOA:20 ng/kg 体重/日
  • PFHxS:評価を行う十分な知見がないため、TDIの算出は困難

 

ただし、今後のPFAS評価の内容によって、将来的にこの数値が見直される可能性も言及されているため、最新の動向には注意が必要です。

 

 

海外や国際機関等のPFASの毒性評価

実験風景

現在、世界各国でPFASの毒性に関する評価が実施されています。日本の省庁や研究機関等が国内の評価を行う際に海外の調査機関データを参考にしているため、日本のPFAS規制の動向を調べる際は海外の評価について理解することが大切です。

ここからは、海外の研究機関や国際機関が実施している毒性評価結果の中でも重要なポイントを解説します。

 

EPA(米国環境保護庁)の毒性評価

EPAでは毒性評価の結果をもとに、200以上の汚染物質に「生涯飲用しても健康影響を引き起こさない濃度」として、HA(健康勧告値)を設定していました。

2016年の健康影響評価において、PFOSとPFOAの合算値として70 ng/LのHAを設定し、2022年にはPFOSを0.02 ng/L、PFOAを0.004 ng/Lへ設定値を更新しました。ただし、HAには法的拘束力はありません。

その後、SDWA(米国安全飲料水法)に基づき、法的拘束力のある許容値と許容目標値の設定を決め、2024年4月に「PFOSとPFOAを含む6種類のPFASに対するMCL(最大許容値)及びMCLG(最大許容目標値)」を発表しました。

 

EPAが設定した指標値(MCL)
PFOS:4 ng/L
PFOA:4 ng/L
PFHxS:10 ng/L
PFNA:10 ng/L
HFPO-DA:10 ng/L
PFHxS、PFNA、HFPO-DA、PFBSのうち2種類以上を含む混合物

 

EPAは現在も様々な評価や調査を行っており、結果に基づく観告値等を随時発表しています。2025年3月時点で最新の一例が次の通りです。

 

水域におけるPFASの健康影響に基づく勧告値案(2024年12月発表)
  • 内陸及び沿岸水域からの水や魚貝類に含まれるPFOSとPFOAを含むPFAS3種類の健康基準案を発表
  • 水+生物のHHC(人の健康基準)/生物のみのHHC(ng/L)
    PFOS:0.06/0.07
    PFOA:0.0009/0.0036
    PFBS:400/500
PFOAとPFOSの下水汚泥リスク評価案(2025年1月発表)
  • 肥料としてまかれた汚水汚泥に含まれたPFOSやPFOAによって健康リスクが生じる可能性があると発表(暫定的な結果として)
  • 汚染源から放牧牛や水源などを経由して人に入ってくるリスクがあり、腎臓がん、前立腺がん、精巣がんを引き起こしたり、免疫系や子供の発育にも悪影響を及ぼす可能性を指摘

 

また、評価の際には「個々のPFASが低量であっても混合すると相加的な影響を及ぼす可能性がある」という研究結果を考慮し、PFAS混合物に対する検討も行われています。

米国のPFAS対策についてより詳しく知りたい方は、こちらの資料も参考にしてください。

 

米国のPFAS戦略について、分かりやすくまとめた資料を配信しております。
(2024年8⽉公開「PFASに関する連邦研究開発戦略計画」の内容に基づく内容)

ぜひこちらからダウンロード下さい。

米国のPFAS戦略

 

 

EFSA(欧州食品安全機構)の毒性評価

EFSAは、2018年の評価でPFOSとPFOAに対し、以下の4つを潜在的な重大影響とし、指標値としてTWI(耐容週間摂取量)の設定を行いました。

  • 血清総コレステロール値の増加
  • 血清ALT値の異常率の増加
  • ワクチン接種後の抗体反応の減少
  • 出生体重の減少

その後、2020年に評価結果が見直され、免疫系への影響が最も重要な影響へと更新されています。また、評価対象のPFASについても、PFOS・PFOAにPFHxS等を加えた4種類に広げ、TWIの見直しも行いました。

 

EFSAが設定した指標値(TWI)
PFOS、PFOA、PFHxS、PFNAの合計:4.4 ng/kg 体重/週

 

ただし、評価ではさらなる調査を必要としているのが現状です。2024年8月に発表した報告書では、「免疫毒性を調査するためのNAM(ニューアプローチ方法論)が有用性を示した」とのことで、これで調査が進めば新たな評価結果が得られる可能性があります。

 

【関連記事】EFSA(欧州食品安全機関)とは?役割やPFASとの関連性

EFSA 旗

 

 

WHO(世界保健機関)の毒性評価

WHOでは、飲料水中のPFOS及びPFOAに関する飲料水水質ガイドラインの背景文書の草案を2022年11月に意見募集用の文書として発表しました。その後2023年11月に、寄せられた意見を反映し、以下の対応を今後行う予定と公表しています。

 

  • 対象PFASの種類を増加
  • 対象水質を飲料水に限らず拡大
  • IARC(国際がん研究機関)等の最新証拠の追記
  • 曝露源の知見等の追記

 

なお、WHOのガイドライン文書では、健康影響を評価するエンドポイントを取り上げていません。これは、主要とされるエンドポイントに不確実性が高い等の理由があるためです。

そのため、WHOでは国際的なPFAS汚染データや利用可能な分析法、除去処理技術等を考慮し、暫定のガイドライン値を定めています。

 

WHOが設定した指標値(飲料水水質の暫定ガイドライン値)
PFOS:100 ng/L
PFOA:100 ng/L
総PFAS:500 ng/L

 

【関連記事】WHO(世界保健機関)とは?活動内容やPFASとの関連性

WHO 世界保健機関

 

FSANZ(オーストラリア・ニュージーランド食品基準機関)の毒性評価

FSANZ(オーストラリア・ニュージーランド食品基準機関)では、 2017年にPFOSとPFOA、PFHxSに関するハザード評価書を公表しています。その後、2021年に血中PFAS濃度と免疫調節への影響に関する評価の報告書を新たに公表しました。

出生時体重や血清総コレステロール値、生殖・発生、がん等に関して評価を行い、TDIの算出を行っています。2021年の新たな疫学研究では、因果関係を確立するには不十分との理由で「免疫調節への影響は重要なエンドポイントとして適切ではない」との見解を示しています。

 

FSANZが設定した指標値(TDI)
PFOS:20 ng/kg 体重/日
PFOA:160 ng/kg 体重/日
PFHxS:現時点では知見不足によりTDIの設定が困難なため、暫定的対応としてPFOSのTDIを適用する。ただし、PFOSとの合算で考えるべき。

 

また、オーストラリアではATDS(オーストラリア総合食事調査)を実施しており、食品を通じて化学物質にさらされる量を推定し、安全性を確認しています。2021年12月に実施したATDSでは、30種類のPFASについて調査を行い、以下の結果が得られました。

 

  • オーストラリアの一般的な食品供給におけるPFAS含有のレベルは非常に低い
  • PFOSが唯一検出されたPFASで、検出率は全サンプルの2 %未満
  • オーストラリアの一般住民のPFOS摂取量はTDIよりも低い

 

これにより、オーストラリアではPFASに対し、現時点では公衆衛生と安全上の懸念がなく、食品規制措置を検討する必要がないとしています。

 

ANSES(フランス食品・環境・労働衛生安全庁)の毒性評価

ANSES(フランス食品環境労働衛生安全庁)は、2017年にPFHxSの経口摂取経路による毒性学的参照値に関する意見書を公表しました。

この意見書の中では、肝臓への影響を重大とする評価結果が示されており、PFHxSの指標値としてiTV(指標毒性値)を算出しています。

 

ANSESが設定した指標値(iTV)
PFHxS:4,000 ng/kg 体重/日

 

また、フランスではPFASの一種であるTFA(トリフルオロ酢酸)が飲料水中に高濃度で検出されたことが問題になっているようです。TFAは除草剤が分解されて生成されるものですが、現在フランスにおけるPFAS規制対象ではありません。

フランスの消費者団体クショワジールが2025年1月に発表した調査結果によると、農薬で適用される限度値を超えており、管理や規制の強化を呼びかけているとのことです。

フランス国内ではPFASへの対応に疑問をもつ声もあり、今回の問題は健康への影響評価の必要性をますます浮き彫りにしています。

 

 

今後もPFASの毒性評価に注目して対応する

PFASが人間の健康に及ぼす影響については、今後も世界中で研究が進められていくと予想されます。国内外の研究結果が日本の法規制の根拠となるケースも多いため、各国や研究機関の毒性評価に関する最新情報を把握しておくことが重要です。

 

 

ユーロフィンのPFAS分析については

こちらからお問い合わせください

お問い合わせ

 

 

記事の監修者

ユーロフィン日本総研 河原崎海

ユーロフィン日本総研株式会社

浜松PFAS事業部 PFASグループ

Manager 河原崎 海

<経歴>

2002年 神奈川大学工学部応用化学科 卒業

2004年 神奈川大学工学研究科応用化学専攻 修士課程 修了

2018年 静岡県立大学大学院 薬食生命総合学府 食品栄養科学専攻 博士課程 単位取得満期退学
学士・修士課程では膜分離、博士課程では食品中の機能性成分に関する研究を行う。

2004年 (一財)静岡県生活科学検査センター入所後、水道水・環境試料の分析に従事し、2012年から農薬メーカー傘下の受託ラボにて食品・農薬分析、試験法開発、異物解析、食品中ノンターゲット分析事業の立上げや、農薬GLP・食品衛生法登録検査機関・ISO17025試験所認定の取得や維持管理を行う。ユーロフィングループ参画後は、品質保証、ラボ移転業務に従事し、2021年からユーロフィン日本総研にてアスベスト事業部統括とラボ移転を担当し、2024年からPFASラボの立上げを担当。

<発表>

 

 

関連記事

PFAS 採血

PFASの血液検査は必要?血中濃度と健康の関連性について

1万種類以上あるとされる有機フッ素化合物、その中のPFOSについて、特徴や規制の内容、社会背景について詳しく解説。

悩む女性

PFASが人体に及ぼす影響は?健康リスクや国内の汚染事例

PFASの健康リスクや国内の汚染事例を解説。最新研究をもとに影響や対策を紹介します。

PFAS規制

PFAS規制の例外的な取り扱いは?世界と日本の動向について

人体への悪影響が指摘されているPFASは、社会的な需要の大きさを理由に例外的な使用が認められるケースがあります。日本と世界におけるPFAS規制の現状と、例外措置が取られる代表的な事例について解説。

 

 

PFAS MEDIA TOPに戻る→


【参考資料】