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PFASは農薬にも含まれている?曝露ルートや危険性について

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投稿日:2025年4月30日

PFAS 農薬

果物や野菜は体にとって欠かせない栄養素が含まれていますが、市場に流通している多くの農産物には農薬が使用されており、食べることで体内に取り込んでしまうことを危惧する方もいるでしょう。

近年は農薬にPFAS(有機フッ素化合物)が含まれているという報道や調査結果もあり、健康への影響を懸念する方も多くいます。

この記事では、農薬に含まれるPFASの種類や含有量、主な曝露ルート、摂取の危険性などについて解説します。

 

INDEX

 

PFAS(有機フッ素化合物)とは?

PFAS

PFASとは、フッ素を含む有機化合物のうち、ぺルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物の総称を指す言葉です。英語では「Per- and PolyFluoroAlkyl Substances」と表記されるため、略称であるPFASが広く用いられています。

PFASには撥水性・撥油性・耐薬品性に優れた物質が多く含まれることから、泡消火薬剤や半導体の製造、生活に身近な日用品など、幅広い分野で使用されてきました。

しかし、人体や動植物に与える影響や、環境に長期間残留する性質が懸念され、日本を含めた世界各国で製造・使用・輸入に対して厳しい規制が敷かれています。

日本では、化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)により、以下の3種類のPFASの製造・使用・輸出入が原則禁止されています。

 

  • PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)
  • PFOA(ペルフルオロオクタン酸)
  • PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸

 

PFASについて詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。

 

【関連記事】PFAS(有機フッ素化合物)とは?特徴から問題点、規制の最新動向まで

PFAS

 

 

PFASと農薬の関係は?

PFAS 農薬 野菜

現代において農業を営むためには、農薬の存在は欠かせません。農薬を使用することで病害虫や雑草を防除でき、収穫できる農作物の量と質を担保できる側面があるためです。

日本を含めた世界中で食料生産に必要な農薬ですが、昨今ではPFASと農薬にまつわる問題が取り上げられています。

 

農薬自体にPFASが含まれている

近年特に問題視されているのが、農薬自体にPFASが含まれていることです。

米国の市民団体・Environmental Working Groupが主体となって実施された調査によれば、調査対象となった農薬の有効成分471種類のうち、全体の14%にあたる66種類の有効成分にPFASが含まれていたことが明らかになりました。

また、名古屋工業大学・柴田哲男教授の研究チームが2020年9月3日に研究成果として発表した論文によれば、1998~2020年に新たにISO一般名が割り当てられた農薬238剤のうち、含フッ素系農薬は127剤にのぼったという結果が明らかになりました。

同じく柴田教授らの研究によれば、世界中で使用されている農薬約2,500剤のうち、フッ素物質は424剤に存在するとのことです。

さらにフッ素物質が存在する424剤を分析したところ、殺虫剤・殺ダニ剤には、他の種類の農薬と比べてより多くのフッ素が含まれる傾向にあるという結論が得られました。

要因の一つとして、フッ素含有量が多いほど昆虫やダニの表面に農薬が吸着・浸透しやすく、効果がより高まりやすくなる可能性が挙げられます。

 

農薬を保存する容器からPFASが溶け出す

農薬に含まれるPFAS以外にも、農薬を保存する容器からPFASが溶け出す可能性についても問題視されています。

農薬や肥料はプラスチック製の容器で販売・保管されることが多いですが、一部の容器は原材料にフッ素が含まれているため、PFASが混入するリスクがあります。

実際に2021年にEPA(米国環境保護庁)が実施した農薬等の検査データによると、蚊を駆除するための製品を包装するフッ素化HDPE(高密度ポリエチレン)容器から、20~50 ppb のPFASが検出された事例があります。

 

PFAS含有の農薬が増えている理由

含フッ素系農薬が増えている別の背景として挙げられるのが、生理活性(生体内で特定の機能に作用する性質)の高さです。

医薬品や農薬の分野では、効果向上を目的にフッ素原子を特定の分子部位に導入することで、生理活性が著しく向上する場合があります。

また、薬効成分が分解されにくく、効果の持続や増幅が期待できる点も、PFAS含有農薬が増えている要因の一つになっています。

なお、一口にPFASといっても、結合する炭素原子の数が少ない短鎖PFASであれば、長鎖PFASよりも毒性は少ないと推測されています。

ただし、これに関してはまだ研究が進んでいない部分が多いうえに、短鎖か長鎖かを問わず植物に蓄積されやすいことは変わらないため、規制に動く地域も多くなっています。

また、現状は短鎖PFASと長鎖PFASに明確な定義がないことにも注意が必要です。

 

 

PFASと農薬に関する各国の現状と規制

PFAS 分析

PFASと農薬に関する問題は主に米国とEU(欧州連合)を中心に研究が進められ、その結果を受けて日本政府や地方自治体が規制を整備する流れが加速しています。

 

米国

米国では各州で官公庁や大学などの研究機関、市民団体によりPFASと農薬に関する調査が進められています。

テキサス工科大学の研究チームが米国農務省の実験圃場(畑)を調べたところ、いずれも平均でトウモロコシから3,230 ppt、さや豆から4,260 ppt、落花生から407 pptの濃度のPFOSが検出されたとのことです。

敷地内の水、培養土、肥料からはPFASが検出されていないため、栽培に使用された殺虫剤配合物にPFASが含まれていたことが疑われています。

その他にも、米国農務省が同省の農作物研究現場で使用されている10種類の殺虫剤を分析したところ、PFOSは10種類中6種類の製剤から検出されました。

これらの研究結果から分かるように、PFASを含む農薬が作物や土壌、それを摂取する人間に影響を及ぼしている可能性が高く、米国は具体的な規制の整備に乗り出しています。

EPA(米国環境保護庁)では、農薬に使用できる添加物のリストから12種類のPFASを削除することを2022年12月に発表しています。ただし、この12種類は削除決定時点では既に米国で使用されている農薬には添加されていません。

より実態に即した規制を行うため、メイン州やミネソタ州など、EPAによる規制をより強化した独自の州法の導入に踏み切る州も出てきています。

 

EU

Pesticide Action Network Europe(欧州農薬行動ネットワーク:略称PAN)では、各国の市民団体と協力し、2011年から2021年の間にEU域内で流通した主な果物と野菜にどの程度PFAS農薬が残留しているかを調査しました。

この結果は2024年に報告書として公表されており、調査対象となった農作物からは、現在EUで使用が認められているPFAS農薬37種類のうち、31種類のPFAS農薬の残留が確認されています。PFAS農薬の具体例としては、以下のものが挙げられます。

 

  • フルオピラム(殺菌剤)
  • フロニカミド(殺虫剤)
  • トリフロキシストロビン(殺菌剤)

 

特に残留濃度が高かった農産物として、イチゴ、桃、アプリコットなどの果物が挙げられます。

また、野菜は果物と比較すると残留濃度は低いものの、チコリ、キュウリなど一部高いものもありました。

なお、EU加盟国のうち、農産物のPFAS農薬残留率が高かった国は以下の5ヵ国です。

 

  • オランダ(27 %)
  • ベルギー(27 %)
  • オーストリア(25 %)
  • スペイン(22 %)
  • ポルトガル(21 %)

 

また、EU圏内に輸入された農作物の生産国のうち、PFAS農薬残留率が高かった国は以下の通りです。

 

  • コスタリカ(41 %)
  • インド(38 %)
  • 南アフリカ(28 %)
  • コロンビア(26 %)
  • モロッコ(24 %)

 

PANは同報告書の中で、農薬中の活性PFASの禁止、PFAS農薬の製造と輸出の禁止、食品への残留ゼロ政策の適用、無農薬農業への移行という4つの政策要求を訴えています。

なお、EUはEFSA(欧州食品安全機関)を通じ、食品中のPFASの最大許容レベルを定める「食品中の特定汚染物質の最大許容レベルに関するEC規制」を設けるなどの規制に乗り出しています。

 

日本

日本の場合、前提として国内で使用できる農薬は農薬取締法により決まっており、含フッ素農薬を含めた全ての登録農薬には、作物ごとに残留基準値が設定されています。

残留基準が定められていない農薬等については、一律基準(0.01 ppm)が設定されています。これは食品衛生法に基づき、人の健康を損なう恐れのない量として定められた数値を指します。

ただし、作物ごとの残留基準値や一律基準値は、有効成分・作物中の代謝物の毒性評価・残留性などを元に設定されるため、分解生成物等についても評価に含んでいる訳ではありません。

その点では、PFASによる影響を考慮した農薬の使用や摂取に関する規制は、現状存在しないといえます。

実際のところ、出荷される農産物に残留する農薬はごく僅かである以上、過度に心配する必要はありません。食べる前に洗う、下茹でをする、皮をむくなど、基本的なことに気を付けていれば十分な対策になるでしょう。

内閣府食品安全委員会も、以下のように見解を示しています。

 


  • 通常の一般的な国民の食生活(飲水を含む)から食品を通じて摂取される程度のPFOS・PFOAによっては、著しい健康影響が生じる状況にはない
  • PFOS、PFOA等のリスクを過剰に懸念して食生活を変更することには、栄養学的な過不足をもたらす等の新たな異なるリスクをもたらす恐れがある

出典:有機フッ素化合物(PFAS)の食品健康影響評価について|内閣府 食品安全委員会

 

  

農薬とPFASの関係について理解を深めよう

PFAS 野菜 スーパー

農薬に含まれるPFASに関しては世界各国で研究・調査が行われており、人体や生態系への影響が徐々に明らかになっています。

現状の日本では具体的な規制にまでは至っていないものの、今後規制が強化される可能性は十分にあるでしょう。

食品に付着する有害物質には、PFASが含まれる農薬以外にも様々な種類があります。有害物質を体内に取り込まないためには、以下のような対策を検討しましょう。

 

  • 生産地が分からない果物・野菜は食べない
  • よく洗い下処理を行ってから調理する
  • どうしても気になる場合は、無農薬・有機栽培の農産物を選ぶ

 

 

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記事の監修者

ユーロフィン日本総研 河原崎海

ユーロフィン日本総研株式会社

浜松PFAS事業部 PFASグループ

Manager 河原崎 海

<経歴>

2002年 神奈川大学工学部応用化学科 卒業

2004年 神奈川大学工学研究科応用化学専攻 修士課程 修了

2018年 静岡県立大学大学院 薬食生命総合学府 食品栄養科学専攻 博士課程 単位取得満期退学
学士・修士課程では膜分離、博士課程では食品中の機能性成分に関する研究を行う。

2004年 (一財)静岡県生活科学検査センター入所後、水道水・環境試料の分析に従事し、2012年から農薬メーカー傘下の受託ラボにて食品・農薬分析、試験法開発、異物解析、食品中ノンターゲット分析事業の立上げや、農薬GLP・食品衛生法登録検査機関・ISO17025試験所認定の取得や維持管理を行う。ユーロフィングループ参画後は、品質保証、ラボ移転業務に従事し、2021年からユーロフィン日本総研にてアスベスト事業部統括とラボ移転を担当し、2024年からPFASラボの立上げを担当。

<発表>

 

 

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