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PFAS MEDIA >> PFAS解説書 >> PFOSを含有する泡消火器とは?規制動向と背景について解説

PFASを含む泡消火器とは?規制の背景や社会動向、取り扱いの注意点

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投稿日:2024年6月4日(2025年10月22日更新)

消火、アクシデント

PFAS(有機フッ素化合物)は、撥水・撥油性や熱・化学的安定性などの特性をもつことから様々な分野で活用されてきました。

泡消火器の薬剤としても広く使用されていましたが、環境や人体への影響が懸念され、一部のPFASがPOPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)の対象になったことで世界的に規制が強化されています。

POPs条約の規制対象となったPFASは、国内でも化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)によって、製造や輸入を原則禁止する等の措置が取られています。しかし、法律が施行される以前に製造されたPFAS含有の泡消火器は現在も存在しており、国ごとに取り扱いに関する遵守義務が定められています。

この記事では、PFASを含有する泡消火器を巡る社会動向や規制の背景、取り扱いの注意点について詳しく解説します。

 

INDEX

 

 

PFASは泡消火器に使用されている?

PFASはこれまで撥水スプレーやフライパンなどの家庭用製品から、半導体をはじめとした工業用製品まで幅広く使用されてきました。その中でも、泡消火器に使用する消火薬剤に主に含まれていたのが、PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)です。

PFOSを使用した泡消火器は、大規模火災への効果が大きいことから、軍用基地・空港・石油コンビナートなどで使用されてきました。しかし、2009年にPFOSがPOPs条約の規制対象となったことで、日本でも化審法における規制が開始されています。

また、泡消火器にはPFOA(ペルフルオロオクタン酸)も使用されていましたが、同様に化審法の規制が2021年より始まっています。

現在はこれらを含む下記のPFASが化審法の第一種特定化学物質に指定されており、国内での製造・輸入・使用が原則禁止されています。

 

【第一種特定化学物質に指定されたPFAS】

  • PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)
  • PFOA(ペルフルオロオクタン酸)
  • PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)

 

現在は化審法で規制対象のPFASを使用した泡消火器の製造は終了していますが、国内規制の前に製造済みの泡消火器の在庫も相当数残っているのが現状です。

 

PFASを含有する泡消火器の在庫量推移

環境省では、化審法の規制対象であるPFASを含有する泡消火器の在庫量調査を実施しています。この調査は、泡消火器が使用されている消防機関や空港などの施設を対象に行われており、2024年11月1日に公表された結果は次の通りです。

PFAS 2024年 2020年(前回)
PFOS 含有泡消火薬剤量 185.0万 L 338.8万 L
薬剤中の含有量 11.45 t 17.82 t
PFOA 含有泡消火薬剤量 23.9万 L 調査対象外
薬剤中の含有量 0.012 t 調査対象外
PFHxS 含有泡消火薬剤は確認されなかった 調査対象外

※値は全国合計値

参考:PFOS等含有泡消火薬剤全国在庫量調査の結果について 2024年11月01日|環境省

 

泡消火器の在庫量調査は2016年と2020年にも実施されていますが、当時はPFOSのみが調査対象でした。

2024年はPFOAとPFHxSの調査が初めて実施されています。PFOSについては、前回と比べて含有泡消火薬剤量は約45 %、薬剤中の含有量は約36 %の減少が確認されています。

 

PFASを含有する泡消火器が残っている理由

PFOSを含む泡消火器がある主な場所

 

PFASを含有する泡消火器が残っている大きな理由として、コストの影響が考えられます。業務用の泡消火器はコンビナートや基地の火災に備えて設置されているため、その数は膨大です。

また、PFASを含まない泡消火器へ交換するには、消火設備全体の改修が必要な場合もあり、交換から廃棄までに多額の費用がかかります。

2025年5月に総務省消防庁で公表された報告書(※)では、泡消火器を設置している駐車場について、「駐車場オーナーの負担が大きく、PFASを含有しない泡消火薬剤への交換が進まないことの一因となっている」との指摘もありました。

しかし、PFOSの消費期限は8〜10年に設定されている消火器製品が多いため、今後は交換がより迅速に進んでいくことが予想されています。環境省や消防庁などの関係省庁も、PFASを含む泡消火器の交換を促しているため、徐々にPFASを含まない泡消火器が主流になるでしょう。

(※)参考:環境に配慮した消火設備の設置基準に関する検討結果報告書 ~PFAS を含有しない泡消火薬剤を用いた駐車場の泡消火設備~|消防用設備等の設置・維持のあり方に関する検討部会

 

 

PFASを含有する泡消火器の扱い方

消火栓

PFASを含有する泡消火器の扱い方は、法令で定められているため、該当する消火器を保有・使用する企業は、その法令を遵守する必要があります。取り扱い上の技術基準や表示義務については化審法で定められており、具体的な規定項目は以下の8つです。

 

  • 保管
  • 移替え
  • 表示
  • 漏出処理措置
  • 点検
  • 訓練等における措置
  • 帳簿
  • 譲渡、提供

 

また、PFASを含有する泡消火器を廃棄物として扱う場合には、廃棄物処理法などで処理と収集運搬の方法が定められています。

 

PFASを含有する泡消火器の対象品番

PFASを含有する泡消火器の対象品番は、一般社団法人 日本消火器工業会がホームページ上で公表しています。それぞれの対象品番は、以下のような表(一部抜粋)でまとめられており、泡消火器や泡消火薬剤の品番がリストアップされています。

 

  製品名 消火器
型式番号
容量(L) 充填薬剤
型式番号
販売者
1 機械泡 消火器 消第53~33号 3 薬第53~10号 (株)初田製作所
2 機械泡 消火器 消第54~8号 3 薬第53~10号 (株)初田製作所
3 機械泡 消火器 消第54~9号 6 薬第53~10号 (株)初田製作所
4 機械泡 消火器 消第54~10号 8 薬第53~10号 (株)初田製作所

参考:PFOS含有消火器一覧表|一般社団法人日本消火器工業会

 

なお、PFHxSについては、対象の泡消火器はないとしつつ、「PFOS含有製品の製造の際に副生成物として含まれる可能性があるため、該当する品番はPFOSの対象品番と同じ扱いとする」という発表が公開されています。

 

PFASを含有する泡消火器の保管方法

PFASを含む泡消火器は、化審法で定められた取り扱いの技術基準に従って保管する必要があります。具体的な保管方法は下表にまとめました。

もし法令に違反し、さらに改善命令にも従わなかった場合には、「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」に処される可能性があります。

 

保管容器 ポリタンクのような浸透しにくい材料を用いた密閉式の堅固な容器
保管場所 雨水などによる流出を防止するため、屋内における、床がコンクリートや合成樹脂などの場所
保管時の表示 容器と保管場所の見やすいところに「PFASを含有する泡消火薬剤を保管している」旨を表示
保管容器の定期点検 次の項目について定期的に点検を行い、異常が認められた場合は速やかな補修が必要

 

  • 容器から泡消火薬剤などが漏出していないか
  • 容器に損傷又は腐食が生じていないか
  • 床面などにひび割れがないか
保管数量の把握 事業所ごとに、保管数量に関する帳簿を作成
記録の保管 点検時の記録、保管数量に関する帳簿は5年間の保管が必要

参考:消火器・泡消火薬剤等 のお取扱いについてのお知らせ|経済産業省

 

PFASを含有する泡消火器の廃棄方法

消火器の廃棄は、廃棄物処理法に従って行う必要がありますが、PFASを含有している場合には「PFOS及びPFOA含有廃棄物の処理に関する技術的留意事項(以下、技術的留意事項)」にも留意しなければなりません。

技術的留意事項は、環境省が2022年に公表したもので「PFOS及びPFOA含有廃棄物の保管・処理委託・収集運搬・分解処理」に関する技術的な手法が細かく記載されています。

廃棄物処理法と技術的留意事項を踏まえ、PFASを含有する泡消火器の廃棄方法の一部を表にまとめました。

 

保管 場所
  • 周囲に囲いを設ける
  • 見やすい箇所に「PFAS含有廃棄物の保管場所である旨」「保管する廃棄物の種類」などの事項を表示した縦横60 cm以上の掲示板を設ける
  • 保管場所に「PFAS含有廃棄物の飛散、流出などの防止」「ねずみや害虫の発生防止」などの措置を講じる   など
容器 次の要件を満たす保管容器を用いる
  • 密閉できる
  • 収納しやすい
  • 損傷しにくい 
処理委託 委託先
  • 他人の産業廃棄物の収集、運搬又は処分を業として行うことができる者であって、委託しようとするPFAS含有廃棄物の分類がその事業の範囲に含まれている者
  • 取扱いに関して十分な知識及び技術を有する者であることを確認すること
通知 排出事業者は、処理業者に対して「PFAS含有廃棄物であること」「数量」「荷姿」などの事項を事前に通知する
交付 委託先にマニフェスト(産業廃棄物管理票)を交付し、返送されたマニフェストは5年間保存する
収集運搬 収集運搬時の飛散や流出、悪臭発生などを防止するための措置が必要 
分解処理 分解時や分解処理のための施設を設置する場合は、飛散や流出、悪臭発生などを防止するための措置が必要

参考:PFOS及びPFOA含有廃棄物の処理に関する 技術的留意事項 令和4年9月 環境省環境再生・資源循環局廃棄物規制課|環境省PFOSを含有する消火器・泡消火薬剤等の取扱い及び処理について~消火器等の適正な取扱い・処理をお願いします~|環境省 消防庁

 

PFASを含有する泡消火器を廃棄する場合、保管だけでなく、処理を委託する場合にも基準を満たす必要があるので注意しましょう。

PFASを含有する廃棄物については、下記の記事で詳しく解説しています。

 

【関連記事】PFOSを含む廃棄物はどう処理すべき?処理方法と注意点について解説

廃棄物

 

 

PFASを含有する泡消火器を巡る社会動向

テクノロジー

PFOSがPOPs条約の規制対象に追加されたことで、PFASの規制は世界規模で広がりました。POPs条約では、附属書A(廃絶)や附属書B(制限)などで製造・使用の規制を定めており、日本を含む加盟国はその内容を国内で適用しなければなりません。

日本では、化審法において条約規制の担保をとっており、泡消火器に関しては、同法における第一種特定化学物質の指定から規制が始まっています。

 

PFASの種類 POPs条約への追加決定 化審法の第一種特定化学物質に指定
PFOS 2009年(附属書B) 2010年
PFOA 2019年(附属書A) 2021年
PFHxS 2022年(附属書A) 2024年

 

PFASフリーの泡消火薬剤の開発

POPs条約によるPFAS規制の広がりとともに、多くの企業や研究機関によるPFASフリーに向けた動きも世界的に進んでいます。国内においても、PFASフリーの撥水・撥油剤、界面活性剤などが開発されており、泡消火器に関しても代替物質の開発や移行措置が進められています。

海外では、オランダの応用科学研究機構(TNO)もPFASフリー製品の開発に積極的に取り組んでおり、「米国の研究開発プロジェクトにおける泡消火器の開発成果」を公表しています。TNOでは泡消火器だけでなく、電子機器や半導体用途においてもPFASからの代替に向けて開発を進めています。

一方でPFASフリーについては明確な定義がなく、取り扱う企業によって解釈が異なるため、表示などには注意が必要です。当メディアでは、PFASフリー製品について次のように定義しています。

 

PFAS MEDIAにおける「PFASフリー製品」の定義

完成した製品および製造工程において、REACH規則・POPs条約・化審法で規制されている物質と今後規制の対象とされるLC-PFCAsが含まれていないこと。

〈物質名〉
PFOS、PFOA、PFHxS、PFHxA、LC-PFCA(C9-C21)

 

PFASを含有する泡消火器の例外的な使用について

消火器の点検

化審法における第一種特定化学物質は、製造や輸入などが原則禁止とされていますが、例外的な使用を認める「エッセンシャルユース」も定められています。

エッセンシャルユースは「その物質が製造に不可欠(エッセンシャル)であり、使用による環境汚染の恐れがない場合に限り認められる用途」ですが、PFASを含有する泡消火器はその指定を受けていません。

しかし、規制以前に製造された既存品が多く残っており、使用が火災時のみに限定されることから「短期間で代替物質の消火器へ交換するのは困難」と判断されています。

そのため、PFASを含有する泡消火器については「取扱上の技術基準の適合義務」と「譲渡・提供する場合の表示義務」を定め、その義務に従った取り扱いであれば、化審法上の問題はないとされています。

結果として、PFASを含有する泡消火器の設置が認められていますが、近年、国内では次のような泡消火器によるトラブルも報道されています。

 

  • 地下駐車場の天井配管からPFOSを含む泡消火剤が誤作動で噴出し、近くの川に流出(2023年)
  • 商業用の駐車場で消火設備と車が接触したことでPFOSが流出(2025年)

 

また、海外においては、消防士のPFAS曝露リスクの深刻さが問題視されています。

アメリカのCDCの報告によれば、消防士は火災現場での煙や埃、PFAS含有の防護服や機器、さらには消火泡を通じて、一般職種と比較して血中PFAS濃度が高いことが確認されています。これは職業的曝露を示す証拠であり、がんやその他の健康被害との関連も示唆されています。

環境への排出や人体への影響を減らすためにも、できる限り早急な代替物質への交換が求められています。

 

 

PFASを含有する泡消火器はこれから代替が進む

PFASは法的な規制によって、泡消火器へ意図的に含まれることがなくなりました。また、多くのメーカーや研究機関において、PFASフリーの泡消火薬剤や泡消火器の開発が進められているのが現状です。

PFASを含有する泡消火器は残っているものの、消費期限が約10年であることから、特にPFOSを含有したものは交換せざるを得なくなるでしょう。そのため、今後数年で泡消火器の交換が進み、PFASを含む泡消火器の国内在庫は徐々に減少していくことが予想されています。

 

 

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記事の監修者

品質保証グループ

ユーロフィン日本環境株式会社 品質保証グループ

受託分析機関としての信頼性や適合性を担保するために、品質システムの整備や監視活動に従事。特に、当社では分析実施項目の大部分でISO/IEC 17025の認定を取得し、PFASについてもISO/IEC 17025認定を取得しており、それら認定の維持管理を主要業務としている。また、国内外のグループ会社と連携した相互監査や技能試験評価、品質会議など、世界中に展開しているEurofinsグループの強みを活かした取り組みも実施。

 

 

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