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PFAS MEDIA >> PFAS解説書 >> PFAS(有機フッ素化合物)の人体への影響は?

PFASが人体に及ぼす影響は?健康リスクや国内の汚染事例

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投稿日:2024年5月14日(2025年3月10日更新)

※ 本記事は「PFASが人体に及ぼす影響は?」を更新したものになります。

PFASとは

最近はニュースなどでPFAS(有機フッ素化合物)という言葉を耳にする機会が多くなっています。国内でも河川や井戸水から高濃度のPFASが検出されるニュースが相次ぎ、国や自治体が原因究明や対策を講じるなど、PFASへの関心が高まりつつあります。

しかし、「PFASとはどのような化学物質なのか」「どの程度の危険性があるのか」「人体にどのような影響を及ぼすのか」については、正しく理解できていない方もいるでしょう。

そこで本記事では、PFASが人体に及ぼす影響について、最新の研究データや情報を参考に詳しく解説します。

 

INDEX

 

 

PFAS(有機フッ素化合物)とは?

研究する男性

PFASとは、炭素とフッ素が結合している有機フッ素化合物のうち「ペルフルオロアルキル化合物またはポリフルオロアルキル化合物」を総称した化学物質群です。

熱や薬品に強く、水や油を弾く性質があるため、生活用品をはじめ様々な用途で使用されてきました。

PFASは1万種類以上あるといわれており、それぞれ性質が異なります。炭素とフッ素が強力に結びつく特性から、自然界で分解されにくい特徴があります。

現在、POPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)において、PFASのうちPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)、PFOA(ペルフルオロオクタン酸)、PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)の3種類が、廃絶・制限の対象に指定されています。

これら一部のPFASは健康に影響を及ぼす可能性が指摘されており、日本を含めた世界各国で輸入・製造・使用が厳しく規制されています。

 

PFASについて詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。

 

【関連記事】PFAS(有機フッ素化合物)とは?特徴から問題点、規制の最新動向まで

PFASとは

 

 

PFAS(有機フッ素化合物)の人体への影響は?

PFAS曝露への人体の影響

 

一部のPFASが人体に及ぼす影響については、各国で研究が進められています。

ここからは、記事更新時の2025年2月時点で、PFASが人体に及ぼす影響について関連性が疑われる以下の観点から具体的に解説します。

 

  • 発がん性
  • ホルモンかく乱作用
  • その他の病気

 

発がん性

PFASによって引き起こされる可能性が高いがんとして懸念されているのは、乳がん、腎臓がん、精巣がん、肝臓がん、甲状腺がん等が代表的です。

WHO(世界保健機関)のがん専門機関であるIARC(国際がん研究機関)では、PFOAを「グループ1(ヒトに対して発がん性がある)」に、PFOSを「グループ2B(ヒトに対して発がん性がある可能性がある)」に分類しています。

ただし、これは「ヒトに対する発がんの原因になり得る根拠がどれだけあるか」の観点で示された分類であり、「発がん性の強さ」を示しているわけではありません。そのうえでIARCでは、曝露の種類や程度などの要因で発ガン性のリスクは大きく異なると結論づけています。

また、PFHxSについては、前立腺がんや乳がんの疫学研究結果が報告されているものの、がんとの関連性は示されていません。IARCをはじめとした国際的な研究機関でも分類には至っていないため、今後の動向を注視する必要があります。

 

ホルモンかく乱作用

PFASには、ホルモンの働きを阻害するかく乱作用があるともいわれており、中でも甲状腺ホルモンと性ホルモンへの影響が懸念されています。

甲状腺ホルモンは、発育や心臓の機能調整など生命維持に関わる重要なホルモンです。性ホルモンは生殖機能だけでなく、自律神経や体温、水分などの心身調整、骨や筋肉などの肉体形成にも関わっています。

そのため、ホルモンの働きが阻害され続ければ、これらの機能に変化が生じ、身体に悪い影響を及ぼしかねません。ただしPFASとホルモンの関連性については、国内外で多くの調査が行われてるものの、情報が不十分などの理由で現時点では確実性がないのも事実です。

 

その他の病気

がんやホルモンかく乱作用以外にも、PFASによって引き起こされる様々な人体への影響が指摘されています。

米国の学術機関である全米アカデミーズが2022年に公表した「PFASへの曝露、検査、臨床フォローアップに関するガイダンス」では、以下の可能性が指摘されています。

 

曝露との関連に十分な知見がある ● 抗体反応の減弱(成人、子ども)
● 脂質異常症(成人、子ども)
● 幼児及び胎児成長の低下
● 腎臓がんリスクの増加(成人)
曝露との関連に限られた・又は示唆される知見がある ● 乳がんリスクの増加(成人)
● 肝逸脱酵素異常(成人及び子ども)
● 妊娠高血圧症リスクの増加(妊娠高血圧腎症)
● 精巣がんリスクの増加(成人)
● 甲状腺障害リスクの増加(成人)
● 潰瘍性大腸炎リスクの増加(成人)

参考:Guidance on PFAS Exposure, Testing, and Clinical Follow-Up (2022) Chapter: 3 Potential Health Effects of PFAS|National Academies

 

 

PFASの毒性評価について

日本では、食品安全委員会がPFOS・PFOA・PFHxSを対象に、人体の健康にどの程度影響を与える可能性があるのかを調査する毒性評価を実施しています。

毒性評価では、「ヒトが一生涯にわたって食品から摂り続けても健康に影響が出ないと推定される量」として、TDI(耐用一日摂取量)を設定しています。

TDIは体重1 kgあたりの摂取量で示されており、諸外国でも設定されていますが、設定値には違いがみられます。

なおPFHxS については、2024年6月時点で評価を行う十分な知見は得られていないため、TDIの算出は困難とのことです。

 

TDI値(単位:ng /kg(体重)/d(日))
日本 PFOS:20
PFOA:20
ドイツ PFOS:28.6
PFOA:20.37
英国 PFOS:成人3.3 小児10
PFOA:成人3.3 小児10
カナダ(Health Canada) PFOS:60
PFOA:21
オーストラリア・ニュージーランド食品基準機構(FSANZ) PFOS:20
PFOA:160
米国(EPA) PFOS:80
※EPAではTDIの値を直接示しておらず、2010年の環境省水環境部会環境基準健康項目専門委員会(第14回)資料において算出された値

 

諸外国の事例では、ドイツのHBM委員会や全米アカデミーズが血中のPFAS濃度による指針値を設定するなど、研究機関が独自の毒性評価を行っているケースもあります。

食品安全委員会では、血中のPFAS濃度による健康への影響を検討し、「将来的に日本の評価を見直す可能性はある」との見解を示しています。

 

PFASの毒性評価について詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。

【関連記事】PFASの毒性評価とは?海外と日本での最新の評価内容について解説

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日本で起こったPFASの汚染事例と健康への影響

全国で行われたPFASに関する調査では、国が定めたPFOS・PFOAの暫定目標値・指針値を超過した事例が確認されています。

環境省はホームページで調査結果を公表しており、中にはPFAS超過が確認された場所を地図にまとめた汚染マップもあります。

ここでは、国内の報道でも大きく取り上げられたPFASの汚染事例を紹介します。

 

排水用の活性炭からPFAS汚染が拡大

2023年10月、岡山県の吉備中央町にある円城浄水場で、暫定目標値を超える1,400 ng/LのPFASが検出されました。

事態判明後の調査によると、再生目的で保管されていた使用済みの活性炭が原因となった可能性が高いとのことです。調査当時、破れた保管袋から活性炭が地面に飛散していたり、梱包されないまま地面に置かれていたなど、所有者による保管状態も問題となりました。

吉備中央町は、水源切り替えや浄水場でろ過砂と活性炭を入れ替える等の処置を行い、同年11月22日に復旧させています。住民に対しては、アンケート形式の調査と血中濃度測定を実施し、健康への影響調査を実施しました。

 

工場周辺で基準値の100倍を超えるPFASが検出

大阪府内で、2020年6月に摂津市の地下水から1,855.6 ng/LのPFASが、翌年6月には大阪市東淀川区の地下水から5,500 ng/L及び1,700 ng/LのPFASが検出されました。

大阪市の調査によると、東淀川区における高濃度検出は、摂津市にあるPFOAを取り扱っていた事業者の影響を受けたものとしています。

当該事業者は2012年10月にPFOAの使用を全廃し、敷地内のPFOAを含む地下水処理などの対応を実施していました。2023年11月からは、遮水壁設置による敷地外への流出防止策を進めており、今後も対策を増強する予定としています。

現在公表されている最新の地下水調査結果では、大阪市(2023年度結果)と摂津市(2024年8月結果)の双方において、PFASの暫定指針値を超過する地点がある状況です。

ただし、両市ともに「超過した地下水については飲用利用がない」としており、そのうえで水道水の利用を呼びかけています。

 

航空基地から河川へ高濃度のPFASが検出

2024年3月、千葉県柏市と白井市の市境を流れる金山落の本流と水路(支流)で、最大1,800 ng/LのPFASが検出されました。その後、さらに上流を調査した結果、最大21,000 ng/LのPFASが検出されています。

高濃度の検出が確認された水路は、自衛隊下総基地付近から流れてきているため、基地に原因がある可能性が示唆されています。しかし柏市では「調査で採水した場所は基地以外の排水も流入しているため断定できない」との見解を示しています。

また、高濃度検出が確認された水路周辺における地下水の調査も実施したところ、一部の井戸において暫定指針値を超えるPFASが検出されています。

2025年2月時点で最新の地下水調査結果(2024年9月結果)でも、暫定指針値を超過している井戸が確認されており、井戸の所有者に対して飲用指導を行うとしています。

 

 

日本国内ではPFASの直接的な健康被害は確認されていない

化審法で第一種特定化学物質として規制されている3種類のPFAS(PFOS・PFOA・PFHxS)については、各国で人体への有害性を示唆する様々な研究データが公開されています。

しかし、国内においては、2025年2月時点でPFAS汚染が主たる原因とする健康被害の報告は確認されていません。

また、水道水の暫定目標値を大きく超える汚染事例は各地で確認されているものの、PFASによる健康への影響は不明点が多いというのが国の見解です。

PFAS汚染に関して「自治体が対策費用を損害賠償請求した」という報道はありましたが、健康被害による損害賠償請求や裁判の事例は未だにありません。 

 

 

PFASの水質検査がついに義務化される

水道水については、2025年2月時点で、PFOSとPFOAの合計で50 ng/L以下という水質管理目標が設定されています。これは水質管理上注意喚起すべき項目で法的効力がなく、水質検査や措置についてはあくまで要請事項にとどまっています。

全国各地で一定濃度を超えるPFASの検出事例が確認されたことをうけ、環境省が水質管理目標設定項目から、水道法上の水質基準へ引き上げる方針を示したとの報道がありました(2024年12月24日)。

PFOSとPFOAが水質基準に引き上げられた場合、自治体や水道事業者には水質検査などが義務づけられ、法令遵守が必須となります。

水道事業者らが対応するための猶予期間を考慮し、施行は2026年4月になる見通しです。

 

 

海外のPFAS汚染事例と米国で有名な裁判

天秤

米国地質研究所の研究によると、「PFAS曝露の多くがグレートプレーンズ、五大湖、東海岸、中央・南カリフォルニアなどの都市部や潜在的なPFAS発生源の近くで起きている」との調査結果が2023年に公表されています。

同研究所は「米国内の水道水の少なくとも45%にPFASが1種類以上含まれていると推定される」との見解も示しています。

また米国では、PFASを製造・使用していた工場・企業を相手に、周辺住民や自治体が大規模な訴訟を起こした事例も多数報告されています。

なかでも、「大手化学メーカー・A社がPFASによる飲料水汚染の責任を問う裁判の原告に対し、最大125億ドル(※当時換算で約1兆8,000億円)を支払う和解案で暫定合意した」という内容は、2023年に日本でも大きく報道されました。

また、別の大手化学メーカーであるB社でも、PFOA汚染に関する訴訟事例があります。この訴訟事例は、後に映画化(「ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」)され、日本でも公開されました(2019年制作、2021年日本公開)。

 

 

PFASが健康に及ぼす影響には注意が必要

PFAS 女性 検索

PFASは1万種類以上が存在するとされていますが、人体への有害性が確認されているのはごく一部です。

海外の様々な文献や研究等で健康への影響が懸念されているものの、明確なデータは少なく、国内における健康被害は未だに確認されていません。

過度に恐れる必要はないものの、PFASの曝露は健康に影響を及ぼす可能性が高いと仮定し、できる限りの対策を行うことが大切です。

水道水を飲む際は浄水器を通す、自治体の広報やテレビ・新聞のニュースをチェックするなど、最低限の注意をすることが望ましいでしょう。

 

 

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記事の監修者

ユーロフィン日本総研 河原崎海

ユーロフィン日本総研株式会社

浜松PFAS事業部 PFASグループ

Manager 河原崎 海

<経歴>

2002年 神奈川大学工学部応用化学科 卒業

2004年 神奈川大学工学研究科応用化学専攻 修士課程 修了

2018年 静岡県立大学大学院 薬食生命総合学府 食品栄養科学専攻 博士課程 単位取得満期退学
学士・修士課程では膜分離、博士課程では食品中の機能性成分に関する研究を行う。

2004年 (一財)静岡県生活科学検査センター入所後、水道水・環境試料の分析に従事し、2012年から農薬メーカー傘下の受託ラボにて食品・農薬分析、試験法開発、異物解析、食品中ノンターゲット分析事業の立上げや、農薬GLP・食品衛生法登録検査機関・ISO17025試験所認定の取得や維持管理を行う。ユーロフィングループ参画後は、品質保証、ラボ移転業務に従事し、2021年からユーロフィン日本総研にてアスベスト事業部統括とラボ移転を担当し、2024年からPFASラボの立上げを担当。

<発表>

 

 

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