水道水にもPFASは含まれている?全国の地域調査データや曝露を防ぐ対策

投稿日:2024年2月28日(2025年1月15日更新)
※ 本記事は「PFAS(有機フッ素化合物)は水道水にも含まれているの?」を更新したものになります。
INDEX
PFAS(有機フッ素化合物)とは?
PFAS(有機フッ素化合物)は、ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物を総称したものです。
もともと自然界には存在しない人工的な化学物質であり、その数は約1万種類以上あるといわれています。
撥水性・撥油性、耐熱性、化学的安定性を持つ特性から、電子機器や半導体、医療機器、日用品など様々な業界で活用されてきました。
しかしその一方で、環境中で分解されにくく蓄積されやすい性質から「フォーエバー・ケミカル(永遠の化学物質)」と呼ばれ、環境や人体への影響が懸念されています。
PFASについて詳しく知りたい方は、下記の記事をご参考ください。
【関連記事】PFAS(有機フッ素化合物)とは?特徴から問題点、規制の最新動向まで
PFASの使用用途
PFASは工業用製品から日用品の製造など、幅広い用途で使用されてきました。
具体的には、半導体の反射防止剤やフォトレジスト、金属メッキの処理剤、塗料、泡消火薬剤、界面活性剤などが挙げられます。
撥水加工や汚れが付きにくい特性を活かし、電化製品や衣服、フライパン、防水スプレー、食品包装紙、ウォータープルーフ化粧品など、日常生活に欠かせない多くの製品で使用されています。
【関連記事】PFASはどのような製品に使用されていた?代表的な使用例を紹介
日本で規制の対象になっているPFAS
1万種類以上あるとされるPFASのうち、現在日本の化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)で規制されているのは以下の3つです。
- PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)
- PFOA(ペルフルオロオクタン酸)
- PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)
PFOSは半導体の製造や金属メッキの処理剤、泡消火薬剤などに、PFOAは繊維や医療、食品包装などの分野で、フッ素加工の助剤や界面活性剤として使用されてきました。
また、PFOSやPFOAと同等の性質をもつことから、双方の代替物質として使用されてきたのがPFHxSです。
2009年にPFOSがPOPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)で制限対象となり、2019年にはPFOA、2022年にはPFHxSが廃絶対象になりました。
これを受けて、日本でも化審法の第一種特定化学物質に指定され、現在はいずれも製造・輸入・使用が禁止されています。
また規制と同時に水環境や水道水の調査が全国的に行われ、2020年にはPFOSとPFOAが水質管理目標設定項目に追加されました。
PFHxSについては科学的知見が乏しいという理由で同じ項目に入っていませんが、要検討項目となっているため今後の動きに注意が必要です。
【関連記事】PFAS(有機フッ素化合物)の規制対象物質とは?種類や使用用途
なぜ水道水からPFASが検出されるのか
現在、規制対象のPFASは使用されていないにも関わらず、全国の水質調査で暫定目標値を上回る検出事例が相次いでいます。
なかには水道水での検出事例もあり、その原因といわれるのが過去にPFASを使用していた工場の廃水や、泡消火薬剤の排出による河川や土壌への流出です。PFASは環境中で分解されにくい特性があるため、使用を止めていても流出先で残存していると考えられています。
さらに、PFASは空気や水を経由して遠くの場所に移動しやすく、流出先が広範囲に広がる特徴があります。
上記の図のように、「土壌から地下水」「河川や湖沼から大気」「大気から雨水」「雨水から再び大地」と循環することで、普段私たちが飲む水道水まで汚染される恐れがあるのです。
全国の水環境における最新のPFAS調査状況
国土交通省及び環境省では、2020年に「有機フッ素化合物全国存在状況把握調査」を実施し、水環境におけるPFASの全国的な状況把握を行いました。この際、PFOSとPFOAでは調査143地点(※1
)のうち「12都府県21地点で暫定目標値(※2)の超過」が、PFHxSでは調査47地点のうち「36都道府県36地点で0.1 ng/L(報告下限値)以上の検出」が確認されています。
また、2024年3月には「令和4年度公共用水域水質測定結果及び地下水質測定結果」が公表され、その中には38都道府県1,258地点(※3)で実施されたPFOSとPFOAの調査内容も含まれていました。ここでは「16都府県111地点で暫定目標値の超過」が確認されています。
※1:測定地点は河川、海域、地下水、湧き水
※2:PFOS及びPFOAの合算値で50 ng/L。1 ng(ナノグラム)は1 g(グラム)の10億分の1
※3:測定地点は河川、湖沼、海域、地下水
水道水におけるPFAS調査については、自治体などが任意で行うケースが多く、国による全国的な状況把握が実施されてきませんでした。しかし、水道水でもPFAS汚染が確認されたことを受け、2024年5月に政府が「水道におけるPFOS及びPFOAに関する調査」を実施し、同年の12月24日に調査の最終結果を公表しています。
この調査は水道事業と水道用水供給事業、専用水道を対象に実施され、2020年4月から2024年9月の期間中における「検査実施有無」や「暫定目標値の超過状況」などを確認しています。
調査結果によると、検査を実施する事業数は年々増加しており、期間中に水質検査を実施した事業数は2,227事業とのことです。また、PFOSとPFOAの暫定目標値を超過した事業数については「2020年度には11事業であったのが2024年度(9月時点)では0事業」に減少していました。
一方、専用水道については「検査が実施された1,929のうち、42の水道で暫定目標値の超過が確認されており、上水道への切り替えや飲用制限などの対策が行われている」とのことです。
また、未だ検査を実施していない水道事業者等や専用水道設置者もいるため、政府は引き続き検査の実施を呼びかけていくとしています。
日本の水道水のPFAS基準値について
厚生労働省は水道水について、2020年にPFOSとPFOAを水質管理目標設定項目に位置付け、PFOSとPFOAの合算値で50 ng/L以下とする暫定目標値を定めました。井戸水についても同様に、暫定目標値として50 ng/Lと設定しています。
この目標値は、当時の科学的知見に基づき「体重50 kgの人が水を生涯に毎日2 L飲用したとしても、健康に悪影響が生じない」と考えられる水準を基に設定されました。
ただし、この目標値は2020年当時の考え方に基づいて設定されたもので、現在も最新の科学的知見に基づく検討が進められています。
さらに、水道水からPFASが検出された事例を受け、環境省はPFOSとPFOAを水質管理目標設定項目から、水道法に基づく水質基準項目へ引き上げる検討を始めています。
水道事業者等に対しては、具体的に下記の要請を行っています。
- 水質基準に準じた検査等の実施に努めて水質管理に活用する
- 水道水で暫定目標値の超過が確認された場合は、水道事業者等において水源の切替等の濃度低減化措置を講じる
水質基準項目へ引き上げられると、検査・改善が要請ではなく義務となるため、今後の動向に注意が必要です。
PFASに関する基準値の見直しは国際的にも検討されており、米国では2024年4月、PFOSとPFOAに対して4 ng/Lという基準値設定(飲料水)を新たに公表しました。
これまでの目標値(PFOSとPFOAの合算で70 ng/L)から大幅に厳しくなり、飲料水中のPFASについて法的拘束力のある基準が初めて設定されました。
PFASを含む水道水の摂取による健康への影響
PFASが環境や人体へ影響を与える可能性がある物質であり、規制や調査が進められていることは多く知られています。
実際にPFASを含む水道水を飲んだ場合、健康にどの程度影響を及ぼすのか気になる方も多いのではないでしょうか。
ここからは、PFASを含む水道水を飲んだ場合の健康影響や、現時点で判明している毒性評価について解説します。
PFASを体に取り込むとどうなるのか
実際にPFASが体内に入った場合、消化管から体内に吸収され、ゆっくりと体外へ排泄されていくと考えられています。
EFSA(欧州食品安全機関)によると、新たな摂取がない場合、体内の濃度が半分になるまでの期間(半減期)は、PFOSで平均5.7年、PFOAで平均3.2年です(※1)。
(※1)「PFOS、PFOA に関するQ&A集 2024 年8月時点|環境省」によると、PFOS:9試験で範囲1.9~18年、PFOA:8試験で範囲1.2~8.5年のデータが出ています。
PFASは現在、世界の様々な機関で研究・分析されており、人体へ影響を及ぼす可能性のある項目が明らかになっています。そのうちの一つであるアメリカの学術機関「全米アカデミーズ」から「PFASばく露、検査、臨床経過観察に関するガイダンス」が2022年に公表されました。
その中で人体へ影響を及ぼす可能性があると考えられたものが以下の通りです。
PFAS曝露との関連に十分なエビデンスがある |
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PFAS曝露との関連に限られた、又は示唆されるエビデンスがある |
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血液中のPFAS濃度(※2)については、以下のように示していました。
● 2 ng/mL未満:人体への影響は予想されない
● 2~20 ng/mL:子どもや妊婦などには影響が生じる可能性がある
● 20 ng/mL以上:人体へ影響が生じるリスクが高まる
(※2)PFOS 、PFOA 、PFHxSを含む、7つのPFAS合計値
また、日本の食品安全委員会は、PFASによる健康影響評価について、2024年6月に「有機フッ素化合物(PFAS)」評価書を公表しています。
その中で、「PFOS及びPFOAについて、疫学研究で報告された血清ALT値の増加、血清総コレステロール値の増加、出生時体重の低下、ワクチン接種後の抗体応答の低下との関連は否定できないと評価した」としましたが、どの程度の量が体内に入ると影響が出るのかについて十分な知見がないとし、今後も検討を進めていく方針を表明しています。
【関連記事】PFASが人体に及ぼす影響は?健康リスクや国内の汚染事例
水道水中のPFASは沸騰することで消える?
日本の水道水は安全に飲めるようになっていますが、残留成分などが気になる場合に、成分によっては煮沸する方法が水道局から推奨されています。
そのため、PFASも煮沸すれば除去できると思われるかもしれませんが、結論として煮沸は逆効果になる恐れがあります。
ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議(JEPA)の見解では、煮沸消毒などの処理ではPFASは消えず、逆に煮詰めることでPFASの濃度が高まる可能性が指摘されています。
PFASによる健康被害の事例
国内において、PFASの摂取が明確な要因とされる健康被害が発生した事例は、現在のところ確認されていません。
しかし、一部の地域で厚生労働省が定めた水道水の暫定目標値の数十から数百倍の検出が認められたことで、周辺住民の不安は大きくなっています。
PFAS曝露による健康被害については、日本や海外で研究・分析が多く進められていますが、メカニズムや因果関係などは未だに断言されていません。水道水からPFASを摂取してしまったとしても、健康被害がすぐに出るわけではないという見解もあります。
現状で、日本における水道水の暫定目標値は、体重50 kgの人が生涯にわたって毎日2 L飲用しても健康に悪影響が生じないと考えられる値で設定されています。
水道水を過剰に恐れず、自治体や国が発信するPFASの情報を正しい知識で理解することが大切です。
水道水に含まれるPFASへの有効な対策
PFASを体に取り込む経路として、最も懸念されているのが飲料水です。
国土交通省は飲料水について、水質異常を把握した場合の情報提供を地方自治体などに依頼しており、公表している「飲料水健康危機管理実施要領」では、以下の3つを飲料水の対象としました。
- 水道法に基づく種々の規制が適用される水道水
- 小規模などの理由で水道法による規制が適用されない水道から供給される水
- 個人が井戸等からくみ上げて飲用する水
このなかでも水道水は、2021年度末時点で98.2 %の普及率に達しており、私達の生活に欠かせないものであることは明らかです。
ここでは水道水に含まれるPFASへの有効な対策を紹介します。
PFAS除去効果が高い浄水器を設置する
活性炭処理やイオン交換樹脂など、PFAS除去に一定の効果が認められている浄水器を取り入れることは有効な対策の一つです。
最近では浄水器協会(JWPA)で定められた規格基準の試験方法で検査し、その結果(PFASの除去率)を表示しているメーカーも増えてきています。
ただし、PFASフリーと記載された浄水器の商品については、表記の基準がメーカーによって統一されていないため注意が必要です。また、浄水器の導入によってPFASの曝露リスクがゼロになるわけではありません。
【関連記事】PFAS(有機フッ素化合物)対策に有効とされる浄水器の選び方とは?
ウォーターサーバーの設置
ウォーターサーバーの設置も水道水のPFAS対策として有効です。ウォーターサーバーにはボトルタイプと水道水浄化タイプがありますが、最近はPFAS除去に対応した水道水浄化型商品も多数販売されています。
安全においしく飲める水が使われたボトルタイプでも、RO水(※)や天然水など種類が複数あるため、PFAS対策をするなら今一度内容を確認しましょう。また、ウォーターサーバーでもPFASの曝露リスクがゼロになるわけではありません。
ミネラルウォーターの購入
手軽にできる水道水のPFAS対策として、ミネラルウォーターの購入が挙げられます。
しかし、国内でミネラルウォーターからPFASが検出された事例もあるため、安全基準については各メーカーの規定や検査方法をしっかりと確認する必要があります。
【関連記事】ミネラルウォーターにPFASが含まれる可能性は?製品選びの注意点
自治体の情報を確認しよう
この記事では、水道水に含まれるPFASの最新情報についてまとめて紹介しました。
水道水は私たちの生活に欠かせないインフラの一つであり、PFASに関しては最も直接的な曝露を受けやすい存在でもあります。
自治体の公式サイトには、水道におけるPFAS検出結果を掲載しているサイトが数多くあります。
必要以上に不安になるのではなく、お住まいの地域情報を確認して、できる範囲で対策をしていきましょう。
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記事の監修者
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ユーロフィン日本環境株式会社 第三者分析機関としての信頼性や適合性を担保するために、品質システムの整備や監視活動に従事。特に、当社では分析実施項目の大部分でISO/IEC 17025の認定を取得し、PFASについてもISO/IEC 17025認定を取得しており、それら認定の維持管理を主要業務としている。また、国内外のグループ会社と連携した相互監査や技能試験評価、品質会議など、世界中に展開しているEurofinsグループの強みを活かした取り組みも実施。 |
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【参考資料】
- PFAS に関する今後の対応の方向性 令和5年7月 PFAS に対する総合戦略検討専門家会議|環境省
- PFOS、PFOA に関するQ&A集 2024 年8月時点|環境省
- 有機フッ素化合物(PFAS)について|環境省
- ペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)について 資料3 |環境省
- P3 2-2 PFHxS関連物質が使用されている製品等の取扱いについて|
第一種特定化学物質に指定することが適当とされたペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)関連物質が使用されている製品で輸入を禁止するものの指定等について(案) 令和6年7月19日(金)| 厚生労働省医薬局医薬品審査管理課化学物質安全対策室 経済産業省産業保安・安全グループ化学物質管理課化学物質安全室 環境省大臣官房環境保健部化学物質安全課化学物質審査室 - さまざまな水源|東京水道局
- 令和4年度公共用水域水質測定結果及び地下水質測定結果について|環境省
- 令和4年度公共用水域及び地下水のPFOS及びPFOA調査結果一覧
- 水道水質データベース 浄水(給水栓水等)の水質|日本水道協会
- 令和4年度公共用水域水質測定結果及び地下水質測定結果について|環境省
- 水道におけるPFOS及びPFOAに関する調査の結果について (最終取りまとめ)|環境省
- 水道水質基準について|環境省
- Per- and Polyfluoroalkyl Substances (PFAS) | US EPA
- General Fact Sheet: EPA's Final Rule to Limit PFAS in Drinking Water (pdf)
- Risk to human health related to the presence of perfluoroalkyl substances in food|EFSA
- 第3章 第5章 Guidance on PFAS Exposure, Testing, and Clinical Follow-Up|NATIONALACADEMIES
- 「有機フッ素化合物(PFAS)」評価書 2024年6月|食品安全委員会
- 「有機フッ素化合物(PFAS)」評価書に関するQ&A|食品安全委員会
- PFOS・PFOAとは?リーフレット2024年8月版|環境省
- 健康影響|東京都保健医療局
- 水道資料室:日本の水道の現状|日本水道協会
- 健康に影響を及ぼす(おそれのある)水質事故の発生が確認された場合の情報提供依頼|国土交通省
- 飲料水健康危機管理実施要領 令和6年4月1日|国土交通省
- P7-9 飲料水中のPFOS及びPFOA」WHO飲料水水質ガイドライン作成のための背景文書 資料1参考1|環境省