米国のスーパーファンド法とは?特徴やPFAS規制との関係性

投稿日:2025年4月16日
スーパーファンド法(包括的環境対策補償責任法)は、米国の有害物質を管理するための法律です。一部のPFAS(有機フッ素化合物)はスーパーファンド法の対象物質に指定されているため、米国で事業を行う際には注意が必要です。この記事では、スーパーファンド法の詳しい内容や、PFAS規制との関係性について解説します。
INDEX
スーパーファンド法とは
スーパーファンド法は、EPA(米国環境保護庁)が策定した法律です。他のPFASを規制する法律とは異なり、PFASを排出した事業者に対して責任を負わせることを重視しているのが特徴です。ここでは、スーパーファンド法の目的や他の法律との違いについて解説します。
スーパーファンド法の目的
スーパーファンド法は、有害物質の放出やその脅威から公衆衛生と環境を守ることを目的とした法律で、1980年に米国議会で制定されました。この法律があることで、有害廃棄物を放棄した責任者を特定し、責任を負わせることができます。
現在進行形で汚染が確認された責任者はもちろん、過去に発生した汚染や、将来的に環境汚染のおそれがある有害廃棄物なども法律の対象になります。
また、緊急時や責任当事者が特定できない場合には、化学や石油産業への課税で集めた資金を信託基金として活用し、放置された有害廃棄物の浄化に充てます。
この巨額の信託基金(スーパーファンド)が創設されたことから、日本では一般的に「スーパーファンド法」として知られるようになりました。
スーパーファンドの浄化プロセス
スーパーファンド法による浄化プロセスは、以下の9ステップで行われます。
スーパーファンド法と他の規制との違い
スーパーファンド法は、有害な廃棄物を放出した責任を追及するための法律です。そのため、PFASの排出を規制するための各種法律とは目的が異なります。
例えば、米国内で施行されているPFAS関連の法律にNPDWR(国内主要飲料水規制)があり、これは飲料水に含まれるPFASを管理するための法律です。また、TSCA(有害物質規制法)では、PFASの製造や輸入、使用などを規制しています。
スーパーファンド法はPFASの排出を直接規制するのではなく、PFASの排出を行った事業者の特定や責任の追及に重きを置いた法律だと考えておきましょう。
PFAS(有機フッ素化合物)とスーパーファンド法の関係性
2024年に一部のPFASが、スーパーファンド法の規制対象物質として指定されました。これにより、PFASを含む製品等を扱う可能性がある企業は、より管理を徹底することが求められます。ここでは、PFASとスーパーファンド法の関係性について詳しく解説します。
PFOA・PFOSが指定物質に追加
2024年4月、EPAはPFOA(ペルフルオロオクタン酸)およびPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)をスーパーファンド法に基づく有害物質に指定しました。
この決定によって、これらのPFAS汚染を発生させた企業や団体に対して、浄化費用の負担を求めることが可能になりました。
さらに、一定量以上のPFOA・PFOSが環境中に放出された場合、直ちにEPAへ報告することも義務付けられています。
特定のPFASが追加された理由
PFASは水や土壌に蓄積し続け、人間の健康状態に影響を与える可能性が指摘されている化学物質群です。
特にPFOAおよびPFOSは様々な研究データで人体や自然への影響が懸念されており、その特性からNPDWRやTSCAでも規制対象に指定されている化学物質です。
一度環境中に放出されたPFASは、難分解性により自然分解されることなく蓄積され続けるため、スーパーファンド法によって適切な浄化措置を強化する方針を決定するに至ったのです。
PFASの特性についてより詳しく知りたい方は、こちらの記事もご参照ください。
【関連記事】PFAS(有機フッ素化合物)とは?問題視される理由や具体的な規制を解説
特定のPFASが追加されたことによる変化
PFOSやPFOAがスーパーファンド法の有害物質に指定されたことで、これらの物質を放出する事業者の責任範囲がより明確化されました。
仮に事業主や企業がPFOS・PFOAを放出していることが判明した場合、それらの管理を徹底し、すぐにEPAへ報告しなければいけません。
さらに、周辺地域にまで排出が及んでいた場合は、そのエリアの浄化義務も発生します。
スーパーファンド法による日本企業への影響
スーパーファンド法は、日本で生活している方に直接的に影響することはありません。ただし、米国で活動する日本企業には大きな影響があります。
例えば、米国にある工場でPFOSやPFOAが排出されていた場合、その責任を追及され、自社で環境中のPFASを除去する必要があります。しかし、PFASを完全に除去するのは技術的に難しく、他の汚染物質を除去するよりも費用が高額になる可能性があります。
企業側が負担を軽減するには、その土地の過去のデータまで遡って、PFAS汚染のリスク調査を徹底して行うことが重要です。
米国での事業はスーパーファンド法による影響に注意
スーパーファンド法は、有害汚染物質を排出した責任の所在を明確にするための法律です。
2024年以降はPFOS・PFOAが対象物質に指定されるため、万が一米国でこれらの物質を放出していた場合、多額の除去費用を請求される可能性もあります。
そうしたリスクを回避するためにも、日頃からPFASの特徴や汚染状況についての情報を入手し、日々最新の規制動向をリサーチすることが重要です。
EPAのロードマップを日本語でわかりやすく要約した資料や
米国連邦政府のPFAS対策や戦略についてまとめた資料を配信しております。
アメリカのPFAS規制動向についてより詳しく知りたい方は、
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記事の監修者
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ユーロフィン日本環境株式会社 品質保証グループ 第三者分析機関としての信頼性や適合性を担保するために、品質システムの整備や監視活動に従事。特に、当社では分析実施項目の大部分でISO/IEC 17025の認定を取得し、PFASについてもISO/IEC 17025認定を取得しており、それら認定の維持管理を主要業務としている。また、国内外のグループ会社と連携した相互監査や技能試験評価、品質会議など、世界中に展開しているEurofinsグループの強みを活かした取り組みも実施。 |
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【参考資料】
- Superfund: CERCLA Overview|EPA
- 米国環境保護庁(EPA)、PFAS汚染を浄化するための重要な規則を最終決定し、広く使用されている2種類のPFASをスーパーファンド法に基づく有害物質に指定することを公表|食品安全委員会
- Biden-Harris Administration Finalizes Critical Rule to Clean up PFAS Contamination to Protect Public Health|EPA
- Per- and Polyfluoroalkyl Substances (PFAS)Final PFAS National Primary Drinking Water Regulation|EPA
- Chemicals under the Toxic Substances Control Act (TSCA)|EPA