PFASは分解できる?分解が難しい原因と最新の分解技術を紹介

投稿日:2025年3月15日
一度放出されたPFAS(有機フッ素化合物)は自然分解されにくく、環境中に残留し続けて長距離を移動する特性があることから、世界中でPFAS汚染が問題視されています。
各国で一部のPFASの使用・製造 の規制が強化される中、PFAS対策に有効な方法の一つとして研究されているのが分解技術です。
しかし、本格的な運用については課題が多く、実用化には至っていないのが現状です。
この記事では、PFAS分解のプロセスや分解が難しい理由、最新の分解技術について紹介します。
INDEX
PFAS(有機フッ素化合物)とは?
PFAS(有機フッ素化合物)は、撥水性・撥油性、難燃性、耐候性などに優れる化学物質群であり、食品包装や衣料品、コーティング剤、半導体、泡消火薬剤など幅広い用途で使用されてきました。
一方で、分解されにくく、環境や体内に蓄積し続ける特性を持っていることから、環境や人体への影響が懸念されています。
特に一部のPFASは最新の研究で健康への影響が指摘されており、世界各国で規制が進められています。
PFASについて詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。
【関連記事】PFAS(有機フッ素化合物)とは?特徴から問題点、規制の最新動向まで
なぜPFASは分解されにくいのか?
PFASは非常に強固な結合構造を持つため、通常の化学物質と同様の分解手法では破壊できません。ここでは、PFASを分解することが困難な理由について解説します。
分解と除去の違い
分解と除去は、それぞれ意味が異なります。
除去とは、土壌や水に含まれたものを物理的・化学的手法で取り除くことです。一方で分解とは、化学構造そのものを破壊して、無害な物質に変換することを意味しています。
PFASの除去方法の種類については、下記の記事で詳しく解説しています。
【関連記事】PFAS(有機フッ素化合物)は除去できる?具体的な除去方法と種類
PFASが分解されにくい理由
PFASは分解が困難な化学物質群として知られています。その理由は、C-F結合(炭素とフッ素の結合)の強さにあります。
C-F結合は、自然界に存在する中で最も強力な共有結合の一つです。
熱への耐性や化学的安定性が非常に高く、通常の分解手法では構造を破壊できないため、環境中に存在するPFASは半永久的に残存し続けます。
このような特性から、PFASは別名「永遠の化学物質(フォーエバー・ケミカル)」とも呼ばれています。
PFASを分解する方法は?最新の分解技術
PFASを効率的に分解する方法については、世界中で研究が進められています。
焼却によってPFASを分解する方法は各国で実用化されており、日本でも同様の方法が採用されています。PFAS焼却処理の温度条件や分解効率、管理基準などについては、環境省がまとめた技術指針「PFOS及びPFOA含有廃棄物の処理に関する技術的留意事項」に詳しく記載されています。
【関連記事】PFOSを含む廃棄物はどう処理すべき?処理方法と注意点について解説
ただし、焼却処理には、不完全な燃焼によって有害性のある副生成物が放出される、完全分解には600 °Cから1,000 °C以上と大きなエネルギーが必要になる等の課題があり、より効率的なPFASの分解方法について研究が進んでいます。
ここでは、最新の研究で注目されているPFASの分解方法をいくつか紹介します。
脱フッ素化
脱フッ素化とは、炭素とフッ素の結合を切断し、フッ素を取り除くプロセスを指します。
PFASの分解に使用される主な方法として、UV照射による水和電子の生成や、触媒反応を利用する手法などがあります。
電気化学酸化
電気化学酸化とは、電気を使ってPFASを分解する方法です。
例えば、ホウ素ドープダイヤモンド(BDD)電極を使用して酸化反応を引き起こし、PFASを分解する方法などがあります。
また、チタン電極を用いた方法でもPFASを効率的に分解できたという報告もあるほか、ラジアルプラズマ放電という方法で分解する方法も報告されています。
微生物によるバイオレメディエーション
微生物によるバイオレメディエーションとは、微生物の働きを利用してPFASを分解する方法です。
データは少ないものの現在も様々な研究が行われており、酸素がある環境(好気的条件)・酸素がない環境(嫌気的条件)のそれぞれにおいて、炭素とフッ素の結合を分解する微生物の能力が示されています。
光触媒
光触媒を利用したPFASの分解方法とは、WO₃/TiO₂触媒と紫外・可視光を組み合わせる方法です。
オゾン処理や光分解だけではPFASを効率的に分解できないものの、これらの方法を組み合わせることでPFASの分解が促進されることが証明されています。
PFASの分解方法はまだ研究段階
本記事で紹介したPFASの分解方法はいずれも研究段階にあり、まだ実用化に至っていません。
技術的に有効性が高いと推測される方法であっても、実用化するまでのコストが高く、大規模な処理には向いていないのが現状です。
現段階では実証事例が少ないため、今後研究が進むことでより有効かつ実用的なPFASの分解方法が提案される可能性があります。
記事の監修者
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ユーロフィン日本環境株式会社 横浜PFAS事業部 PFASグループ Specialist 野島 智也 |
<経歴> 2012年 筑波大学 理工学群 化学類 卒業 2020年からは有機分析チームの分析要員としてPFOS・PFOA分析の立ち上げに従事し、その後、R&Dグループとして国内の分析法、EPA法、ISO法等を立ち上げる。 2023年には独自法による排ガス中のPFAS一斉分析法を立ち上げる。 |
ユーロフィンのPFAS分析については
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