PFASの水質検査方法は?調査から分析までの流れと最新の動向

投稿日:2025年7月18日
PFAS(有機フッ素化合物)は、世界的に規制が進められている化学物質です。
国内でも環境水や水道水に含まれるPFASの目標値が設定されているため、PFASの水質検査がどのような手順・方法で実施されるのかについて詳しく知りたい方もいるでしょう。
本記事では、主に環境水(河川水・地下水など)、排水、水道水、飲料水を対象としたPFASの水質検査方法について解説します。
INDEX
PFASの水質検査が必要な理由
PFAS(有機フッ素化合物)は炭素とフッ素の強い結合を持つ化学物質であり、撥水性や耐薬品性といった特性から産業用途で幅広く使用されてきました。
その多くは自然環境中で分解されにくく、長期間にわたって残留・蓄積する性質を持つため、環境中の移動や生物への蓄積が懸念されています。
近年、一部のPFASが健康に影響を及ぼす可能性が報告されており、リスク評価や規制の議論が進められています。
このような背景から、日本国内の水質を定期的に検査し、PFASの存在状況を継続的に把握することが、健康リスクを未然に防ぐうえで不可欠な取り組みとなっています。
PFASに関する詳しい情報は、以下の記事をご覧ください。
【関連記事】PFAS(有機フッ素化合物)とは?特徴から問題点、規制の最新動向まで
国内におけるPFASの水質基準
2025年6月現在、国内では河川・地下水等の環境水に含まれるPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)およびPFOA(ペルフルオロオクタン酸)が、について、合計値で50 ng/L以下という暫定目標値が適用されています。
また、環境省はPFASによる健康影響への懸念を踏まえ、この暫定目標値を水道法上の水質基準に格上げする方針を示しており、2026年4月からの施行が予定されています。これにより、水道事業者には水質検査と基準超過時の改善が法律で義務付けられる見通しです。
現在も健康影響に関する調査は継続されており、将来的には暫定目標値の見直しや規制対象PFASの拡大などが検討される可能性もあります。
水質中のPFAS分析手順
水質中のPFAS分析には複数の方法が存在しますが、基本的な手順は共通しています。ここでは、水質中のPFASを測定する際の一連の流れを紹介します。
1.調査計画
調査を開始する際には、PFASの発生源や流入経路を把握し、採水地点、採水頻度、対象物質を明確に設定した計画を策定します。目的に応じて、環境基準や参考値との比較を行うことも重要視されています。
2.採取機材・試料容器・試薬等の準備
採水には、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やシリコンを含まない容器を使用し、器具に分析対象成分が含まれないことを確認します。また、精製水やメタノールなどの溶媒もPFASが検出されないことが確認されたものを使用し、機材・容器は事前に洗浄して十分に乾燥させます。
3.分析方法の確認
分析法には、主にSPE(固相抽出)とLC/MS/MS法(高速液体クロマトグラフ-タンデム質量分析法)が用いられます。
環境省のマニュアルでは、ISO(国際標準化機構)やEPA(米国環境保護庁)の手法に準じた条件が記載されており、測定対象や精度に応じた手法の選定が必要です。
4.検体の前処理
採取した水試料は、採取後すみやかに冷暗所(4 ℃)で保存します。測定に供する前には、ろ過や濃縮、精製などの前処理を行います。
5.報告書の作成
最終的な分析結果を報告書にまとめます。試験条件や使用機材、検体番号、採取日時などの記録も明記し、再現性や信頼性を担保する構成で記載します。
国内外の主な水質検査法
PFASの水質検査法は複数あるため、適切な方法を選択することが重要です。ここでは、国内外で利用されている主な水質検査法について解説します。
なお、下記で紹介している全ての分析方法は、SPEによる濃縮とLC-MS/MSを使用した方法で測定を行います。
PFOS・PFOA・PFHxS 検査マニュアル
「PFOS・PFOA・PFHxS 検査マニュアル」とは、水道水中に含まれるPFOSやPFOA、PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)の検出に対応するため、国立医薬品食品衛生研究所が策定したマニュアルに基づく方法です。
試料の採取方法、前処理手順、LC-MS/MSによる分析条件など、精度の高い定量を行うための標準的な検査方法が示されています。
水質管理目標設定項目の検査方法
水質管理目標設定項目に対する検査方法では、PFOSやPFOAを含む化学物質の正確な測定を行うために、採水・保存・前処理・分析に関する標準的な手順が定められています。
特にLC-MS/MSを用いた定量法や、定量下限の設定、精度管理に関する要件が詳細に記載されています。
JIS K 0450-70-10
JIS K 0450-70-10は、水環境中のPFOSおよびPFOAの定量分析に関する日本産業規格です。他の分析方法と同様、SPEによる濃縮とLC-MS/MSを用いた測定方法について示されています。
検出精度や試料の調製手順が標準化されており、公的機関でも広く採用されています。
上記3種類の水質検査法および、国内のPFAS分析における代表的な水質サンプリング方法については、下記の資料で詳しく解説しています。
⽇本国内で使⽤されているPFAS分析における代表的な⽔質サンプリング方法について紹介しています。
海外のサンプリング方法についても解説し、国内との違いが分かるようになっておりますので、
今後のPFAS対策にご活用ください。
EPA Method 533
EPA Method 533は、EPA(米国環境保護庁)が2019年に公式採用した標準法です。
飲料水中の短鎖PFAS(C4〜C12)を対象とした分析法であり、複数のPFASを同時に検出可能です。EPA Method 537と補完的に利用されています。
EPA Method 537.1
EPA Method 537.1は、EPAが2018年に発表した飲料水中のPFASを対象とした分析手法です。PFOS、PFOA、PFHxSなど18種類のPFASの高精度な定量が可能です。
EPA Method 1633
EPA Method 1633は、EPAと国防総省が共同開発したPFASの包括的分析法で、2021年にドラフト版が公表されました。水、土壌、バイオソリッドなど多様なマトリックス中の40種以上のPFASを一括分析する方法として期待されています。
公定法
国内では、環境省が発行した通知「環水大水発第2005281号/環水大土発第2005282号」に基づく公定法もあります。この分析方法では、水環境中のPFOS・PFOA濃度の分析が可能です。
日本における環境水には、水道水と同じくPFOS・PFOAの合計で50 ng/Lの暫定目標値が設定されており、正確に数値を測定するためには、公定法を用いた検査を実施することが望ましいでしょう。
水道水のPFAS検査が義務化
2025年2月、環境省は水道水に含まれるPFASのうち、PFOSおよびPFOAを水質基準項目に追加し、検査を義務化する方針を発表しました。基準値は両物質の合計値として50 ng/L以下に設定される予定です。
検査頻度については、基本的におおむね3ヶ月に1回以上の定期検査を求める方針です。ただし、過去の検査結果や水源の状況によりPFOSおよびPFOAの検出リスクが低いと判断される場合は、6ヶ月に1回、さらにリスクが極めて低い場合には1年に1回へと軽減されることも認められています。
この改正は2026年4月1日から施行される予定です。(※2025年6月時点)
正しい方法でPFASの水質検査を実施しましょう
PFASの水質検査には様々な手法がありますが、精度の高い結果を得るためには、国が推奨する公的な方法に基づいて実施することが重要です。独自の手法による検査では、信頼性や比較精度に欠ける可能性があるため注意が必要です。
検査方法の選定に迷う場合や、より確実な分析を希望する場合には、実績のある専門機関への依頼を検討するとよいでしょう。
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記事の監修者
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ユーロフィン日本環境株式会社 ラボラトリー事業部 POPsグループ PFAS・PCBチーム 緒方 駿 |
<経歴> 2017年 日本分析化学専門学校 生命バイオ分析学科 卒業 |
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【参考資料】
- PFOS、PFOA に関するQ&A集(2024年8月時点)|環境省
- 化学物質環境実態調査実施の手引き(令和2年度版)|環境省
- PFOS・PFOA・PFHxS 検査マニュアル|厚生労働省 国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部
- 水質基準に関する省令の制定及び水道法施行規則の一部改正等並びに水道水質管理における留意事項について|環境省
- 工業用水・工場排水中のペルフルオロオクタンスルホン酸及びペルフルオロオクタン酸試験方法|日本工業規格
- 水質汚濁に係る人の健康の保護に関する環境基準等の施行等について(通知)|環境省 水・大気環境局長
- 「水道における水質基準等の見直しについて(第1次報告案)」及び「水質汚濁に係る人の健康の保護に関する環境基準等の見直しについて(第7次報告案)」等に関する意見の募集(パブリックコメント)について|環境省
- 水質基準に関する省令及び水道法施行規則の一部を改正する省令案について(概要)|環境省
- METHOD 533: Determination of Per- and Polyfluoroalkyl Substances in Drinking Water by Isotope Dilution Anion Exchange Solid Phase Extraction and Liquid Chromatography/Tandem Mass Spectrometry|EPA(米国環境保護庁)
- J.A. Shoemaker and D.R. Tettenhorst, Office of Research and Development|EPA(米国環境保護庁)
- Draft Method 1633: Analysis of Per- and Polyfluoroalkyl Substances (PFAS) in Aqueous, Solid, Biosolids, and Tissue Samples by LC-MS/MS|EPA(米国環境保護庁)