PFASの基準値とは?日本と各国の飲料水基準や超過時の対応策

投稿日:2025年12月3日

PFAS(有機フッ素化合物)は、撥水性や耐熱性の高さから幅広い産業で利用されてきましたが、分解されにくく環境中に残留する性質があることから、国際的に健康リスクや環境影響が懸念されています。
近年では飲料水からの検出事例も相次ぎ、日本を含む各国で水道水や公共用水に関する基準が設けられ、規制の強化が進められています。
本記事では、日本における暫定目標値や基準値への移行の動きに加え、海外主要国の飲料水基準や、基準を超過した場合の対応策について解説します。
INDEX
PFASの基準値とは

PFASの基準値に関しては、世界全体で統一された明確な値は存在しません。
各国の科学的知見や社会的背景、リスク評価の枠組みによってそれぞれ設定方法が異なり、その結果として数値や法的拘束力に差が生じています。
例えば日本では、水道水について「暫定目標値」が設定されており、行政の達成目標として運用されています。一方で米国では、MCL(第一種飲料水規則における最大汚染レベル)が導入され、法的拘束力を持つ強い基準として事業者に遵守が義務付けられています。
PFASに関する情報を確認する際には、数値そのものだけでなく、その背景にある制度や法的効力まで理解することが重要です。
日本におけるPFASの基準

2025年時点の日本では、水道水に含まれるPFASに対して「暫定目標値」、公共用水域や地下水に含まれるPFASに対して「指針値(暫定)」が設定されています。
2026年4月1日からは、これらの数値が正式な基準値として見直されることが決定しており、より厳格な管理体制が求められる見通しです。
水道水・公共用水・地下水の暫定目標値
日本では、2020(令和2)年からPFASを水道水における水質管理目標設定項目に位置付け、暫定目標値を設定しています。
また、公共用水域・地下水については、PFOS及びPFOAの合算値で50 ng/Lという指針値(暫定)が定められています。
ただし、「目標値」「指針値」「基準値」にはそれぞれ意味の違いがあります。それぞれの違いについては、以下の表の通りです。
| 値 | 説明 | 法的拘束力 |
| 目標値 | 健康や環境の望ましい姿を示すために設定される理想的な値 | なし |
| 指針値 | 行政や専門機関が「この程度を守るのが望ましい」と示す目安の値 | なし |
| 基準値 | 法律や規則で定められる、必ず守らなければならない値 | 違反時には法的措置の対象となる |
飲料水のPFAS規制について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
【関連記事】飲料水のPFOS・PFOA基準値とは?規制内容と国内の検出状況を調査
2026年から基準値へ変更される
PFASのうちPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)とPFOA(ペルフルオロオクタン酸)は、これまで水道水では暫定目標値、公共用水や地下水では指針値(暫定)によって管理されてきました。
しかし、2024年6月に内閣府食品安全委員会が実施した食品健康影響評価の見直しを受けて、2026年4月1日から制度が改正されます。
これにより、水道水は法的拘束力を持つ「基準値」に移行し、公共用水や地下水は引き続き「指針値」として管理されることになりました。
特に水道水については、基準値になることで事業者に数値順守の義務が課され、従来以上に厳格な対応が求められるようになります。
改正後の数値は以下の通りです。
| 対象 | 基準 |
| 水道水 | 基準値:PFOS及びPFOAの合算値で50 ng/L |
| 公共用水・地下水 | 指針値:PFOS及びPFOAの合算値で50 ng/L |
参照:「水質基準に関する省令の一部を改正する省令」及び「水道法施行規則の一部を改正する省令」の公布等について|環境省
PFASの基準を超過した際の法的対処

現在の水道水の暫定目標値や河川等の指針値(暫定)を超過した場合、関連事業者には法的な対応が求められる可能性があります。
水道水のPFAS基準を超えた場合
水道水に含まれるPFASが従来の暫定目標値(50 ng/L)を超過した場合、水道事業者や専用水道の設置者には、過去の対応事例を踏まえて速やかな施設設備の改善が求められます。
また、緊急性が高い場合には、住民に飲用や摂取を控えるよう周知しつつ、生活用水としての給水を継続するといった暫定対応が取られる可能性があります。
さらに、2026年4月1日からは暫定目標値ではなく正式な基準値として扱われるため、水道事業者等には基準遵守の義務が課されます。
これにより、従来の目標値管理以上に厳格な責任が伴い、義務違反に対する罰則の強化や新たな措置が導入される可能性もあります。
施設周辺の河川等でPFASの基準を超えた場合
PFOSやPFOAは、水質汚濁防止法において「指定物質」に位置付けられています。
そのため、これらを製造・貯蔵・使用・処理する施設を設置する事業場では、事故時の緊急措置が義務付けられています。
具体的には、排出の防止や除去のために応急措置を講じ、その状況を速やかに都道府県知事等に届け出る必要があります。
これらの義務に違反した場合は、行政処分や罰則の対象となる場合があります。
水質汚濁防止法についてさらに知りたい方は、以下の記事もご参照ください。
【関連記事】水質汚濁防止法とは?規制内容や指定物質に基づくPFAS対策について
各国の飲料水におけるPFAS基準

飲料水のPFAS規制基準は、米国、カナダ、ドイツなど国や地域ごとに異なる内容が設定されています。規制値は国によって大きく差がありますが、世界的には年々厳格化する傾向にあります。
過去には、イタリアで水質汚染をめぐり日本企業社員が有罪判決を受ける事例もあり、国際的に企業責任が問われるケースも出ています。さらにEUでは包括的な規制提案が進められており、世界的に規制強化の流れは拡大しつつあります。
国際的に規制が強まるなか、各国の飲料水基準を把握しておくことは、リスクを回避するうえで非常に重要です。代表的な国におけるPFASの基準は以下の通りです。
| 国 | 基準 | 数値 |
| 米国 | MCL(第一種飲料水規制における法的拘束力をもつ最大汚染レベル) | PFOS:4 ng/L PFOA:4 ng/L |
| 英国 | 暫定的な基準値 | PFOS・PFOA:10 ng/L超で要評価 総PFAS:100 ng/L超で要対策 |
| カナダ | 飲料水の指針値 | 25種類のPFASの合算値:30 ng/L |
| オーストラリア・ニュージーランド | 飲料水の指針値、飲料水の寄与率(割当率)は10%として算出 | PFOS:70 ng/L(PFHxSと合算) PFOA:560 ng/L |
| ドイツ | 暫定的な指針値 | PFOS:100 ng/L PFOA:100 ng/L |
世界各国の基準値や飲料水規制の動向について知りたい方は、下記のホワイトペーパーで詳細をご覧いただけます。
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(飲料⽔中のPFAS規制を進めている国や、各国の最新基準値、現在までのPFAS規制の動向など)
各国のPFAS基準は将来的に見直される可能性がある
飲料水などに含まれるPFASの基準値は、いまだ統一された指標はなく、国ごとに独自の数値や法的拘束力が設定されています。
一方で、世界的には規制の強化が進んでおり、飲料水に関する基準も今後見直される可能性があります。
定期的に最新の情報を確認し、必要に応じて適切な対策を検討することが重要です。
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【参考資料】
- 「水質基準に関する省令の一部を改正する省令」及び「水道法施行規則の一部を改正する省令」の公布等について|環境省
- 「水道における水質基準等の見直しについて(第1次報告案)」及び「水質汚濁に係る人の健康の保護に関する環境基準等の見直しについて(第7次報告案)」等に関する意見の募集(パブリックコメント)について|環境省
- 指定物質に関するQ&A|環境省
- PFOS、PFOA に係る国際動向|環境省
- イタリアの裁判所、PFAS汚染で3邦人ら有罪 三菱商事の元子会社|日本経済新聞
- Objective for Canadian drinking water quality per- and polyfluoroalkyl substances|Canada.ca
- PFAS and Forever Chemicals|Drinking Water Inspectorate








