オーストラリアのPFAS規制は?輸出入の制限や飲料水の規制方針

投稿日:2025年12月16日

オーストラリアは、日本企業との貿易・投資関係が深く、食品、化学品、製造業など幅広い分野で重要な国です。
近年、同国ではPFAS(有機フッ素化合物)による環境・健康影響への懸念が高まり、製造・輸出入・廃棄を含む包括的な規制が進められています。
特に2025年7月に施行された工業用化学物質環境管理基準(IChEMS)で最も厳しい規制区分である(Schedule 7)では、一部のPFASとその関連物質、ならびにそれらを含有する製品の製造・加工・商業利用・輸出入が原則禁止となりました。
加えて、飲料水ガイドライン(ADWG)における健康基準値(HBGV)の見直しや、PFAS国家環境管理計画「NEMP3.0」による管理基準の改訂も進んでいます。
本記事では、こうした制度の概要と最新の規制動向を整理し、PFASを取り扱う企業が確認すべきポイントについて解説します。
INDEX
オーストラリアのPFAS汚染事例

オーストラリアでは、水道水や土壌におけるPFAS汚染が社会問題となっており、環境および人の健康に長期的なリスクをもたらす懸念から政府が対策を強化しています。
国内調査では、公共給水網の水からPFOA(ペルフルオロオクタン酸)が最大9.7 ng/L、PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)が最大16.4 ng/L検出された事例が報告されています。
また、ニューサウスウェールズ州ウィリアムタウン空軍基地やクイーンズランド州オーキー基地などでは、消火剤(AFFF)による汚染が深刻化。住宅地周辺の地下水観測孔からは、PFOAが最大10,500 ng/L、PFOSが最大136,000 ng/Lといった、国際的にも極めて高濃度のPFASが確認されています。
こうした背景を受け、オーストラリア政府は飲料水ガイドラインの見直しやPFAS国家環境管理計画「NEMP 3.0(PFAS National Environmental Management Plan 3.0)」の改訂など、包括的な環境規制の整備を進めています。
オーストラリアとPOPs条約の関連性

オーストラリアは、地球規模で人々の健康と環境を保護する国際的な枠組みであるPOPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)の締約国です。
2004年5月20日に本条約を批准し、同年8月18日から締約国として義務を負っています。
この条約は、環境中で分解されず生物に蓄積する残留性有機汚染物質(POPs)の環境中への放出を排除または削減するための措置を各国に求めるものです。
特にPFOS・PFOA・PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)は、このPOPs条約の附属書に掲載されており、オーストラリアでも国内法制化が進められています。
PFOSは2009年の第4回締約国会議(COP4)で附属書B(制限)、PFOAは2019年の第9回締約国会議(COP9)で附属書A(廃絶)、PFHxSは2022年の第10回締約国会議(COP10)で附属書A(廃絶)に追加されました。
2025年5月に開催された第12回締約国会議(COP12)では、長鎖カルボン酸(LC-PFCAs、C9〜C21)の附属書A(廃絶)追加も決定し、PFAS規制の対象範囲は拡大しています。
【関連記事】POPs(残留性有機汚染物質)とは?対象物質や規制内容について解説
オーストラリアの国家的な規制枠組み
PFASは、水や土壌を通じて長距離移動する性質を持つため、広大な国土を誇るオーストラリアでは、州境を越えた全政府機関における協調的な対応が必要です。
そのため、オーストラリアでは、豪州およびニュージーランドの環境保護機関長から構成されるHEPA(Heads of EPA Australia and New Zealand)が、PFAS国家環境管理計画「NEMP 3.0」を策定し、連邦・州・準州による統一的な基準と実務指針を提供しています。
最新版となるNEMP 3.0は、2025年3月4日に公表され、汚染サイトの調査・リスク評価・修復、バイオソリッズの再利用、廃棄物管理等を対象に、国として一貫性のある実用的でリスクベースの枠組みを提示しています。
さらに、NEMP 3.0には汚染土壌、バイオソリッズ、モニタリング基準に関する補足文書(Supporting Documents/Ancillary Documents)も併せて公表されており、実務的な運用支援が強化されています。
オーストラリアのPFAS製造と使用の規制

オーストラリアでは、2025年7月1日からPFOA・PFOS・PFHxSおよび関連物質、それらを含有する製品の製造・加工・商業利用・輸出入が禁止されました。
この禁止措置は、工業用化学物質環境管理基準(IChEMS:Industrial Chemicals Environmental Management Standard)における(Schedule 7)への分類によって施行されています。
(Schedule 7)は、IChEMSの中で最も厳格な管理区分に位置づけられており、環境へのリスクが極めて高い化学物質を対象とした実質的な全面禁止措置です。
ただし、企業活動への影響を考慮し、以下のような限定的な免除用途が認められています。
【免除用途】
- 微量汚染など定義された閾値を下回る場合
- 科学的研究または分析試験目的
- 禁止施行以前にすでに使用中の製品における継続利用
これらの規制は、オーストラリア政府によるPFASの段階的排除方針および国際的なPOPs条約附属書の整合化対応の一環として導入されました。
さらに、今後は長鎖カルボン酸(LC-PFCAs、C9〜C21)の扱いについても、国内制度改正の動向が注目されています。
輸入・製造に関わる企業には、この新規制に向けたサプライチェーン全体の監査およびコンプライアンス確保が求められており、環境管理体制の見直しが急務とされています。
オーストラリアの飲料水のPFAS規制

オーストラリアの水道水管理は、NHMRC(国立保健医療研究審議会)が策定するオーストラリア飲用水ガイドライン「ADWG(Australian Drinking Water Guidelines)」に基づいて実施されています。
なお、ADWGが本格的に使用される以前は、旧来の暫定ガイドライン(汚染サイト調査で用いられていた指針値) が広く実務で参照されており、PFOS+PFHxS:70 ng/L、PFOA:560 ng/L が暫定的な目標値として扱われていました。これらは土地汚染調査やリスク評価の参考値として用いられてきたもので、現在はADWGの健康ガイドライン値が優先的に参照されています。
ADWGは法的拘束力を持つ基準ではありませんが、各州・準州が参照する科学的指針として広く採用されており、「生涯にわたって摂取しても健康に有害な影響を生じない濃度」を示しています。
2024年に改訂されたADWGの最新ガイダンス(Version 4.0)では、PFASに関する評価が更新され、PFOS、PFOA、PFHxS、PFBSの4物質に対して個別の健康に基づくガイドライン値(HBGV:Health-Based Guideline Values)が設定されています。
これらのHBGVは、許容一日摂取量(TDI)を基にした閾値アプローチを用いて導出されたものです。
| 物質名 | HBGV |
| PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸) | 8 ng/L(0.008 µg/L) |
| PFOA(ペルフルオロオクタン酸) | 200 ng/L(0.2 µg/L) |
| PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸) | 30 ng/L(0.03 µg/L) |
| PFBS(ペルフルオロブタンスルホン酸) | 1,000 ng/L(1 µg/L) |
また、次世代の代替化学物質であるGenX(HFPO-DA:ヘキサフルオロプロピレンオキシド ダイマー酸)については、現時点ではHBGVを設定するための十分な健康科学的根拠がない状態と評価されています。
【関連記事】PFASの一種であるGenXとは?化学物質の特性や規制の動向
オーストラリアのPFAS規制の動向に注目
オーストラリアへの輸出入を検討している企業には、法制度に沿ったサプライチェーンの監査と規制遵守が求められています。
同国のPFAS規制環境は年々本格化しており、国際的な規制動向によって今後もその内容は変化していく可能性があります。
オーストラリア飲用水ガイドライン(ADWG)は、定期的なレビューの実施が明記されており、汚染物質の許容基準や管理手法も今後の科学的知見に応じて更新されていくでしょう。
企業担当者は、POPs条約の動向や国家的な環境管理計画(NEMP)を含め、最新の規制情報を継続的にフォローすることが重要です。
ユーロフィンのPFAS分析については
こちらからお問い合わせください
記事の監修者
![]() |
PFAS分析を行うユーロフィングループのネットワークを活かして、国内外の様々なPFASにまつわる情報を配信しています。 |
関連記事
![]() |
アジア諸国のPFAS規制の現状は?規制の傾向と最新動向について アジア各国におけるPFAS規制の最新動向を国別にわかりやすく整理。各国の法規制の違いや今後の規制強化の動きなどを解説。 |
![]() |
PFAS規制は国際会議でどう変わる?最新の決定内容と影響を解説 PFAS規制の最新情報を国際会議COP12の決定内容から解説。今後の国内規制の方向性にも注目。 |
![]() |
OECDとPFAS規制の関係性は?最新レポートからわかる世界の動き PFAS対策を進める企業必見。OECDが示すET・BATの方向性と各国のPFAS処理技術の最新動向を紹介。 |
【参考資料】
- PFAS National Environmental Management Plan 3.0|DCCEEW
- Per- and poly-fluoroalkyl substances (PFAS)|Department of Energy, Environment and Climate Action (DEECA) Victoria
- Australian Drinking Water Guidelines|NHMRC(National Health and Medical Research Council)
- PFAS National Environmental Management Plan 3.0(PFAS NEMP 3.0)|National Chemicals Working Group of the Heads of EPA Australia and New Zealand
- Australia to Ban Key PFAS Chemicals from 1 July 2025|Maersk







