【2025年施行】EUで進むPFAS規制強化|組織・規則の動向まとめ

投稿日:2025年6月6日
EU域内では、PFAS(有機フッ素化合物)に関する規制が年々厳格化しています。
特に2025年には食品包装に関する新たな制度が予定されており、EU加盟国への製品輸出や製造に関わる企業にとって、EUを取り巻くPFAS規制の最新動向の把握は不可欠です。
本記事では、EU域内での製品流通や取り扱いに関するEU独自の規則を中心に、EUのPFAS規制の構造や強化の方向性についてわかりやすく解説します。
INDEX
PFASとは
PFAS(有機フッ素化合物)は、耐熱性や撥水性などの特性を持つ1万種類以上もの化学物質群の総称です。
一部のPFASは製品の加工や品質向上に極めて高い汎用性があったことから、これまでに多くの製品に使用されてきました。
一方で分解されにくい特性を持っており、環境中に長期間残留することから、人体や生態系への影響が懸念されています。
特にPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)や、PFOA(ペルフルオロオクタン酸)など一部のPFASは健康に影響を及ぼす可能性が指摘されており、日本を含む多くの国で規制の対象となっています。
PFASについて詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
【関連記事】PFAS(有機フッ素化合物)とは?特徴から問題点、規制の最新動向まで
PFASを含む製品に関連する規制
EUでは、PFASを含む製品の輸出入や使用に対して、様々な規則が整備されています。
特にEU域内との取引や製品展開を行う企業にとって、規制内容の理解と対応は重要な課題となります。ここでは、輸出入や製品流通に深く関わる代表的な規則を紹介します。
REACH規則
REACH規則(化学物質の登録、評価、認可および制限に関する規則)は、EUが定める包括的な化学物質規制であり、人の健康や環境に有害な化学物質のリスクから守ることを目的とした制度です。
化学物質の製造者や輸入者に対しては、その物質の特性や用途に関する情報の登録や評価が義務付けられており、必要に応じて認可や使用制限が課されます。
PFASの中でも特に懸念の高い物質は、SVHC(高懸念物質)候補リストや附属書XIV(認可対象物質リスト)に掲載されており、段階的な使用制限の対象となっています。
PFHxAやGenX、C9~C14 PFCAなど、具体的にどのPFASが対象となっているか、今後の規制強化の見通しなどについて詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
【関連記事】【2024年度版】ヨーロッパ輸出で注意すべきREACH規則のPFAS規制リスト
POPs規則
POPs規則(Regulation (EU) 2019/1021)は、残留性有機汚染物質(POPs)による環境や人の健康への長期的な悪影響を防ぐため、EUが独自に制定した法制度です。
この規則は、国連のPOPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)を履行するために設けられたものであり、EUではより厳格な基準や管理措置が導入されています。
POPs規則では、附属書I(Part A)に指定された物質について、製造・使用・上市が原則禁止とされています。現在、PFASの中では、PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)、PFOA(ペルフルオロオクタン酸)、PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)の3種類が収載され、厳しい規制対象となっています。
なお、国連のPOPs条約は、世界的に有害なPOPsの排除や制限を目指す国際条約であり、EUのPOPs規則はこれをより強化・具体化したものです。EUでは条約に基づくだけでなく、物質群アプローチの導入や閾値設定の厳格化など、独自の規制強化が行われています。
【関連記事】POPs(残留性有機汚染物質)とは?対象物質や規制内容について解説
その他の代表的なPFAS関連規制
EUでは、REACH規則やPOPs規則などの製造・流通に関連する法制度以外にも、飲料水・廃棄物・食品安全に関連する様々な規則でPFASに対する管理が進められています。
製品に含まれるPFAS規制以外の代表的な規則については、以下の通りです。
【EUのPFAS関連規則一覧】
規則・指令 | 概要 | |
飲料水指令(DWD) | PFAS全体および特定のPFAS 20種類の水質基準を設定し、飲料水中の濃度を厳格に管理。 | |
水枠組み指令(WFD) | 地表水(河川・湖・沿岸水・移行水など)の保全を目的とし、PFASを含む水生生態系への影響を監視・管理。 | |
地下水指令(GWD) | 地下水汚染防止のため、PFASを含む有害物質の濃度基準を設定。 | |
食品安全規制 | 食品に含まれるPFASの最大残留基準(MLs)を設定。主に魚介類、卵、肉食品などが対象。 | |
廃棄物枠組指令(WFD) | PFASを含む廃棄物の管理強化を図り、排出基準の引き下げや分類基準の改正を推進。 |
EUのPFAS規制に関連する主な組織
EUにおけるPFAS規制は、複数の法律や枠組みに基づき、関連組織によって策定・運用されています。中でも規制の制定や実施に深く関わっているのが、以下の2つの主要組織です。
EC(欧州委員会)
欧州委員会(European Commission:EC)は、EU全体の政策・法案の起草、執行、法令順守の監督などを担う執行機関です。
PFASに関しては、規制の方向性を決定づける政策提案や、EUの法制度の整備を主導する役割を担っており、REACH規則やPOPs規則の改正提案、飲料水指令(DWD)の改定など、PFAS関連規制の枠組みを策定する中心的な存在です。
また、PFASの包括的規制案(ユニバーサルPFAS規制)においても、科学的評価を踏まえた法案の採択・決定を行う立場にあります。2025年に予定されているPFAS規制案の最終決定も、欧州委員会による承認が不可欠とされています。
ECはPFASの規制枠組み全体を統括・調整する政治的・制度的な中枢であり、EU域内におけるPFAS対策の舵取り役を果たしています。
ECHA(欧州化学品庁)
ECHA(欧州化学品庁)は、EUにおける化学物質規制の実施を科学的に支援し、その円滑な運用を担う専門機関です。
ヘルシンキに本部を置き、EU域内における化学物質のリスク評価や規制提案、各国当局や企業への技術支援を行っています。
PFASに関しては、制限案の作成、科学的知見の収集と評価、加盟国との共同調査などを主導しており、REACH規則に基づくユニバーサルPFAS規制の技術的土台を築いたのもECHAです。
また、SVHC(高懸念物質)の選定やリスト追加の際にも、ECHAの評価が基準とされており、規制プロセスにおいて不可欠な存在です。
【関連記事】ECHA(欧州化学機関)の役割とは?主な活動内容やヨーロッパへの影響
その他にも、PFASに関連する健康影響や食品・医療分野での評価においては、EFSA(欧州食品安全機関)やEMA(欧州医薬品庁)、欧州委員会共同研究センター(JRC)に加え、環境データの収集・分析を担うEEA(欧州環境庁)などもリスク評価や政策支援の観点から重要な役割を担っています。
EUのPFAS規制の最新動向
EUでは、PFAS規制のさらなる強化に向けた動きが本格化しており、2025年2月には「包装および包装廃棄物に関する規則(PPWR)」が施行されました。2026年8月12日からEU全域で適用され、食品包装材におけるPFASの使用が制限されます。
さらに、同年中には約1万種類のPFASを対象とする包括的な規制案の採択・施行が予定されており、REACH規則の枠組みに基づいてPFASの製造・使用・上市を広範囲に制限する内容となっています。
2025年はEUのPFAS規制において大きな転換点となる可能性があり、特にEUとの製品取引に関わる企業は、今後の制度改正や最新の動向に継続して注意を払う必要があります。
EUのPFAS規制に注意しましょう
EUのPFAS規制は、他国と比較しても厳格な水準で運用されており、今後さらに強化される見込みです。2025年には新たな規制の施行が予定されており、EUとの取引がある企業にとっては製品設計や輸出入体制の見直しが求められる可能性があります。
また、EUの規制動向は他国の政策にも影響を与える傾向があり、日本国内の規制強化にも波及することが予測されます。業種を問わず、PFASに関する最新情報を継続的に把握し、自社の対応方針を早めに検討しておくことが重要です。
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記事の監修者
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ユーロフィン日本環境株式会社 第三者分析機関としての信頼性や適合性を担保するために、品質システムの整備や監視活動に従事。特に、当社では分析実施項目の大部分でISO/IEC 17025の認定を取得し、PFASについてもISO/IEC 17025認定を取得しており、それら認定の維持管理を主要業務としている。また、国内外のグループ会社と連携した相互監査や技能試験評価、品質会議など、世界中に展開しているEurofinsグループの強みを活かした取り組みも実施。 |
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【参考資料】
- PFOS、PFOA に関するQ&A集 2024 年8月時点 |環境省
- EUROPEAN COMMISSION
- ECHA|Purpose
- Understanding REACH|ECHA
- EUROPEAN UNION|Regulation - 2019/1021 - EN - EUR-Lex
- EUROPEAN COMMISSION|Drinking water
- EUROPEAN COMMISSION|DIRECTIVE (EU) 2020/2184
- EUROPEAN UNION|Regulation (EU) 2019/1020 and Directive (EU) 2019/904, and repealing Directive 94/62/EC
- ECHA|ECHA publishes PFAS restriction proposal