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半導体製造におけるPFASの必要性は?規制動向や代替物質の開発について

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投稿日:2024年10月31日(2025年7月18日更新)

半導体装置

PFAS(有機フッ素化合物)の中でも一部の化学物質について、人の健康に影響を与える可能性が示唆されています。しかし、汎用性の高い様々な性質を持つPFASは、半導体の製造をはじめ、多くの製造・加工現場で使用されてきました。

本記事では、半導体製造に使用されているPFASの今後の動向や、国内外の規制、開発が進む代替物質の最新情報などについて解説します。

 

INDEX

 

PFAS(有機フッ素化合物)とは?

PFASとは有機フッ素化合物のうち、炭素とフッ素が強力に結びついた特性を持つ「ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物」の総称です。

1万種類以上あるといわれるPFASの中には、撥水・撥油性や熱・化学的安定性などの性質があり、多くの分野で使用されてきました。

しかし、環境中で分解されにくく、高い蓄積性や長距離移動性を有することから、人や動植物への悪影響が懸念されています。

有害な化学物質を規制するPOPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)では、現在3つのPFASを廃絶・制限の対象とし、製造や流通などを世界的に規制しています。

対象のPFASは次の通りで、加盟国である日本でも化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)において、これらを第一種特定化学物質に指定しています。第一種特定化学物質に指定されたPFASは、製造や輸入が原則禁止とされています。

 

  • PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)
  • PFOA(ペルフルオロオクタン酸)
  • PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)

 

食品安全委員会の発表では、PFOS・PFOAが体内に入ることで「コレステロール値の上昇」「発がん」「免疫系」などとの関連が報告されているものの、十分な知見がないため、今後も国際的に基準値などの検討を行っていくとの見解を示しています。

PFASについてより詳しく知りたい方は、下記の記事も合わせてご覧ください。

 

 【関連記事】PFAS(有機フッ素化合物)とは?特徴から問題点、規制の最新動向まで

pfas

 

PFASは半導体の製造に必要とされた化学物質

半導体製造のPFAS使用例

一部のPFASは世界的に問題視されていますが、熱や薬品に強く化学的安定性が高いため、半導体製造には必要不可欠だといわれています。製造工程における用途例は次の通りです。

  • フォトマスク
  • フォトレジスト
  • 反射防止膜
  • エッチング剤

 

フォトマスクは設計回路を転写するために必要で、フォトレジストや反射防止膜、エッチング剤も半導体の要となるウエハーの製造に欠かせません。

また、PFASは半導体単体の製造だけでなく、半導体を取り付けるプリント基板や半導体製品の緩衝フィルムなど幅広い用途で使用されています。そのため、PFASを含まない材料で半導体や半導体関連の製造を行うには、製造過程からの見直しが必要であるため対応が難しいと懸念されています。

 

 

国内外で代替物質への置き換えを推進

半導体製造

PFAS規制が加速する中で、半導体製造に使用されるPFASは代替物質への置き換えが推奨されています。半導体をはじめ多くの製品を扱う世界的な大手企業が「全てのPFAS製造から完全徹底する」と表明した事例は大きく報じられました。

国内外で多くの企業がPFAS対策に動いており、米国では半導体のPFASコンソーシアム(共同事業体)が立ち上げられています。このコンソーシアムは、半導体メーカーが中心となって構成されており、これまでPFASに関する代替物質などの情報発信や開発を行ってきました。

また、日本では現時点で化審法の規制対象外でも、海外で規制対象になっているPFASは多数あります。その中でも代表的な化学物質は次の通りです。

 

  • PFBS(ペルフルオロブタンスルホン酸)
  • HFPO-DA(GenX化合物)
  • 長鎖PFCAs(ペルフルオロカルボン酸類)

 

今後の国際動向によっては、日本の半導体製造も影響を受ける可能性があるため、代替物質への移行は急務といえます。環境省が発表した資料の中では、PFOS・PFOA・PFHxSに対する代替物質例が公表されており、半導体用途における代替物質例が次の通りです。

用途 代替物質例
半導体のフォトレジストと反射防止膜コーティング フッ素化合物
化合物半導体やセラミックフィルターのエッチング剤 Short-chain perfluoroalkyl sulfonates
(短鎖ペルフルオロアルキルスルホン酸塩)
電子機器及び半導体の製造 [フッ素フリー]
  • 酢酸アミル、アニソール、酢酸n-ブチル、乳酸エチル、メチル-3-メトキシプロピオネート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート
  • フッ素を含まない光酸発生剤
  • KrF フォトレジストシステム

引用:資料3-3 PFOS、PFOA 以外のPFASの国内の製造状況等|PFASに対する総合戦略検討専門家会議(第2回)配付資料|環境省

 

ただし、「日本における使用実績は不明」としており、PFASの代替物質への置き換えはあまり進んでいないのが現状です。

その一方で、国は半導体事業に対する支援を行っており、高性能な半導体の安定的な生産確保を後押ししています。日本の将来を見据えた対応ですが、半導体の工場が新しく建設されれば、近隣住民のPFASに対する不安が高まるでしょう。

工場が設置される地域の自治体によっては、周辺の環境水のPFAS検査を定期的に行うなどの協定を結び、対策を講じているとのことです。

 

 

PFAS含有製品を巡る国内外の規制動向

製造したチップを確認する様子

PFASの規制については、物質単体だけでなく、半導体のようにPFASを含有する製品も対象となる場合があるため注意が必要です。

日本では化審法で3つのPFAS(PFOS・PFOA・PFHxS)が第一種特定化学物質に指定されたことで、製造・輸入の原則禁止のほか、第一種特定化学物質を使用する製品の輸入も禁止されています。

また、PFOSとPFOAについては、使用した製品の適正な取り扱いや処理について取りまとめた「PFOS及びPFOA含有廃棄物の処理に関する 技術的留意事項」が環境省で策定されています。

 

【関連記事】PFOSを含む廃棄物はどう処理すべき?処理方法と注意点について解説

廃棄物

 

米国では、TSCA(有害物質規制法)で有害な化学物質や混合物の規制を行っており、製造や輸入の際の届出などが定められています。PFASに対しては、2023年に「TSCAに基づいたPFASに関する報告および記録保持」の規則が適用されました。

この規則では、該当するPFAS単体や混合物、含有製品に対し、用途や生産量、環境・健康への影響に関する情報などの報告を義務付けています。

さらに、EU(欧州連合)においても、REACH規則(化学物質の登録、評価、認可および制限に関する規則)で化学物質の製造・輸入などを定めており、化学物質の含有製品も規制対象となっています。

同規則で制限物質に該当すれば製造や輸入に制限がかかり、PFASでは長鎖PFCAsとPFHxA(ペルフルオロヘキサン酸)の2つが現時点で対象となっています。

長鎖PFCAsは物質単体や混合物、含有製品に対し「低濃度である場合を除き使用や販売を禁止」としたうえで、半導体に関しては以下の内容で規制されました。

 

  • 「半導体製造におけるフォトリソグラフィーまたはエッチング工程」の目的に限り、2025年7月4日までは長鎖PFCAsの使用を許可
  • 半導体単体、半製品および完成電子機器に組み込まれた半導体が含有製品として適用される

 

また、REACH規則を管轄しているECHA(欧州化学品庁)は、2023年に1万種類以上のPFASの制限規制案を公表しています。現在も分野ごとの検討が進められており、今後の動向に注視が必要です。

 

【関連記事】【2024年度版】ヨーロッパ輸出で注意すべきREACH規則のPFAS規制リスト

調査員

 

 

国内ではPFASフリーの半導体向け化学物質も開発

半導体チップ

PFAS含有製品の規制が進む中、日本国内では代替物質の研究や開発が進んでいます。2025年3月時点で、公表されている7つの企業事例を表にまとめました。

 

事例1
  • PFASフリーと高難燃性を両立させたポリカーボネート樹脂を開発
  • PFASを使うことなく高難燃性を実現
事例2
  • PFASフリーの超高耐熱離型フィルムを開発
  • PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)と同等以上の高温離型性をもち、高温環境下での寸法安定性や高温伝達に優れている
事例3
  • 従来のフッ素系界面活性剤と同等の表面活性効果を持つPFASフリー界面活性剤を開発
  • 本開発品は「半導体・オブ・ザ・イヤー2024」の半導体用電子材料部門で優秀賞を受賞
事例4
  • 先端半導体向けPFASフリーのモールド離型フィルムを実用化
  • 独自の技術でガスバリア性と耐熱柔軟性を備えており、半導体製造の稼働率向上にも寄与する
事例5
  • ArF液浸レジスト材料である光酸発生剤および撥水ポリマーのPFASフリー化に成功
  • 今後「PFASフリーArF液浸レジスト」の開発と製品化を目指す
事例6
  • フッ素系コーティング剤の代替としてUV硬化型の非フッ素系撥水撥油コーティング剤を提案
  • 開発(提案)品はフッ素系コーティング剤と同等の撥水撥油性が期待でき、密着性や耐薬品性にも優れている
事例7
  • PTFEフリー素材を用いた半導体製造装置用の可動ケーブルを生産
  • 化学物質の製造・加工に関する規則やREACH規則に準拠している

将来的にPFASフリーの半導体製造を実現できるか、これからの日本国内の動きに着目していきましょう。

 

 

半導体とPFASは密接に関係している

PFASは半導体分野において、その特性で幅広く重宝されてきたため、半導体とPFASには密接な関係があります。

そのため、国内外でPFASの使用や輸入に対する規制強化が検討されている中、半導体製造では依然としてPFASが使用されているのが現状です。様々な企業で代替物質の研究や開発が進められていますが、規制対象のPFAS全てを代替物質へ移行するには時間がかかるとも予想されています。

また、国外で半導体をはじめPFASに関わる製品の取引をする場合は注意が必要です。EUにREACH規則があるように、国内だけでなく取引先の国における規制対象物質や、規制内容、独自の法律にも配慮しなくてはなりません。

今後のPFASにおける世界状況や規制、最新の研究開発などの情報を常にチェックしておきましょう。

 

 

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PFAS MEDIA編集部

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