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ドライバー遺伝子とパッセンジャー遺伝子|これって何?バイオコラム第20回

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こんにちは。もも太です。

最近、科学論文を検索する時は、「がん」に関連した標題を選ぶ機会が多くなりました。この分野の論文では、「ドライバー遺伝子」や「パッセンジャー遺伝子」という用語が良く出てきます。今回はこの用語に関連する、がんの発生についてコラムします。

 

用語の説明は、国立がん研究センターのWEBサイトの内容がわかりやすいので以下に引用させていただきます。

『がん遺伝子・がん抑制遺伝子といった、がんの発生・進展において直接的に重要な役割を果たす遺伝子をドライバー遺伝子と呼ぶ。がんの発生過程においては、ゲノム変異が起こりやすい状態(いわゆるゲノム不安定性)となるため、がんの発生には無関係な遺伝子にもランダムに変異が起こることが知られている(背景変異、あるいはパッセンジャー遺伝子と呼ばれる)。従って、統計的解析によって、本物の異常(ドライバー遺伝子)と背景異常(パッセンジャー遺伝子)を区別する必要がある。ドライバー遺伝子は低分子阻害剤や抗体医薬などさまざまな分子治療の標的として有望である。』(https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2014/1103/index.html

 

そもそもがんはなぜ発生するのでしょうか?現在その機序は、「多段階発がん」として理解されています。つまり、体内の正常細胞の異常として複数の遺伝子に起こる変異が出発点であり、長い期間に蓄積することを要因として、がん化した細胞が徐々に増殖を続けるようになり、誘発されるという説明です。「ドライバー遺伝子」は、その変異の本体が、がん化に直接かかわっている運転手役の遺伝子であり、「パッセンジャー遺伝子」は、がん化した細胞に間接的に起こっている乗客役の遺伝子を意味します。

 

では、いったいいくつの遺伝子変異異常が起こるとがんになってしまうのでしょうか?これについては、がんの種類やステージによっても異なり、まだその全容は明らかにされていませんが、2015年11月に臨床分野で権威のある雑誌『New England Journal of Medicine』に興味深い論文が報告されました。この論文は、多くのがん組織のゲノム解析を実施した結果、「ドライバー遺伝子」の3つの遺伝子異常であなたはアウト!と報告しています(The Path to Cancer - Three strikes and You're Out, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26559569)。非常にインパクトのある表現で、3つの変異だけでがんになる!?と恐ろしい気分にもなりますが、内容は限られた症例数での包括的な話ですので、さらなるエビデンスが必要だと思います。

 

一方、治療の観点からみれば、原因の明らかな「ドライバー遺伝子」を阻害あるいは修復できれば、がんは治せるのではないかと期待されます。実際に「ドライバー遺伝子」変異に対応して、特異的に阻害する分子標的医薬品(抗体医薬品など)の開発が進み、その奏効率は非常に高いことが報告されています。このように、少なくとも「ドライバー遺伝子」の変異解析を行う事で、成功率の高い治療薬剤選択の支援が可能になってきています。しかしこれも、同じ臓器に発生するすべてのがん患者で奏功しているわけではなく、絶対的なものとは言えません。個別に発生するがんでは、新たな「ドライバー遺伝子」変異の存在や、「パッセンジャー遺伝子」変異の関与の可能性も考えられ、さらに今後の研究の成果を待たなければなりません。

 

「遺伝子変異ががんの原因である」との、がんの発生機序への理解が進み、治療の方法は大きく変わってきました。今後、遺伝子変異の解析は、予防や早期発見において益々活用されていくでしょう。そのためにも、繰り返し解析が可能な低侵襲の遺伝子変異検査方法が求められています。本コラムで度々紹介しているリキッドバイオプシーによる遺伝子変異解析は、これらの研究目的にも非常に魅力的な方法と言えます。高性能な測定機器や低価格化に向けた測定試薬などの開発がさらに進み、近い将来、最適な治療を受けられるような医療社会になることを願います。

 

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